株式会社長沼農園さま突撃インタビュー
多角的な観点から組織改革を遂行。
安定した生産を持続するための工夫とは?
平成23年に法人化された長沼農園さま。
代表の長沼芳憲さんは5期目にお父様から代表を継いだ後は土や作物の研究を重ねながら品目を増やしていきました。他には、マネジメントに取り組むなどと事業拡大に向け取り組まれてきました。
今回は、長沼さんが代表を継いでから工夫したことや取り組まれたことなどを通し、農業法人を運営するうえでのヒントとなるお話を伺いました。
目次[非表示]
- ・Q1.就農のきっかけを教えてください。
- ・Q2.就農してから代表を引き継ぐまで、どのような経験をされましたか?
- ・Q3.売上を伸ばすためにどんな取り組みをしましたか?
- ・Q4.ニラを中心に様々な品目を栽培するようになった背景は何でしょうか?
- ・Q5.人員構成において注力したことはありますか?
- ・Q6.「組織」として農園を運営・拡大していく為に工夫していることはありますか?
- ・Q7.6次化産業として「もっちりニラ餃子」の販売に至った理由は何ですか?
- ・Q8.近隣の方や農業関係者との関係性のつくるコツはありますか?
- ・Q9.クロスエイジはどんな存在ですか?
- ・Q10.売上1億円突破に向けて注力したいことを教えてください。
- ・Q11.長沼さんの今後のビジョンと代表として目指す姿を教えてください。
Q1.就農のきっかけを教えてください。
A.農業を通して社会に貢献したかったため。
もともと就農したいという気持ちは全くありませんでした。子供ながら、将来なりたいと考える「かっこいい」職業の中に、農家という選択肢がありませんでしたね。
しかし、大学で経営学を専攻して学びを深めるにつれて、社会に貢献する仕事に憧れるようになりました。加えて農業の人手不足や耕作放棄地などの社会問題を目にすることも多く、「農家」の家に生まれたことも何かの縁ではないかと思い、大学卒業後、兄に代わって私が就農することを決めました。
Q2.就農してから代表を引き継ぐまで、どのような経験をされましたか?
A.経営の難しさを痛感。周囲の協力を得ながら代表を継ぐ。
就農当時の会社の売上は5,000万円弱、両親と祖父母、技能実習生が1人という家族経営体制を採用していました。当時はメディア等でも「農業にも経営的感覚を」と言われていた時でした。
私自身、大学で学んだ経営学ノウハウをもとに、どんぶり勘定ではなく経営感覚をより家業にも落とし込みたいと考えていました。
しかし、経営云々だけではなく、同時に生産についての学びも深める必要があると痛感し、事業拡大は考えているよりもずっと難しいと感じました。
新参者だった私は、父と衝突することもありました。今思えば、お互いが事業をより良くしたいという気持ちが強かったのだと思います。強行突破で自分なりに取り組むこともありましたね。父と話し合いを重ねてきたものの、お互いの折り合いをつけることの方に集中してしまい本末転倒になってはいけないと思い、しまいには独立も考えました。そんな姿を見た周りの先輩農家が父を後押ししてくれて、私が代表を引き継ぐこととなりました。
Q3.売上を伸ばすためにどんな取り組みをしましたか?
A.栽培効率が上がるよう、土壌分析や人材確保など様々な環境を整えた。
栽培面では土壌分析を行いました。就農して以来、同じように作ったものでも畑によって出来具合に差が出ることを疑問に思っていました。また、病気によって全滅してしまう畑もありました。自分なりに勉強してみたところ、土壌分析をすると解決のヒントとなることを知りました。現在は、土壌分析に基づいた肥料設計や、有機物の導入、耕うんの方法を変えるなど、土の研究をしっかり行うようにしています。
マネジメント面では人材確保に取り組みました。当時は人が足りず、せっかく育てた野菜が収穫しきれない事態が起こっていました。経費をかけても人材を増やしたほうが結果として収益が上がると考えたんです。
あと、私たちが日常において注力しなければならないポイントというのは、作物や土の様子をじっくり観察しスムーズな生育を維持させることです。そんな中、必要なモノの所在が分からず探すことに時間を費やしてしまうようなことは何の生産性もないと感じたので、作業道具などのモノの管理体制をしっかりと整えました。
Q4.ニラを中心に様々な品目を栽培するようになった背景は何でしょうか?
A.安定的に収穫し続けるため。
群馬県伊勢崎市は、様々な作物を育てやすい気候の地域です。複数品目を栽培することでリスク分散でき、経営的にも安定しやすいと考えています。
私が代表を引き継いでからはキャベツの栽培を始めました。キャベツは時期的にブロッコリーと同じ頃に栽培されるものです。ブロッコリーは気温の変化で収穫量に大きく差が出てしまい、継続的に収穫し続けることが難しいです。その点キャベツは育てやすく安定して収穫できます。
来期からはトウモロコシの栽培を増やす予定です。1年を通してどの時期でも野菜を収穫できるようにしています。
Q5.人員構成において注力したことはありますか?
A.仕事を任せて責任感を持ってもらうことで、経営的な意識付けも行う。
現在は正社員2名、特定技能外国人4名、パート4名、そして時期に応じて派遣の方2名が働いています。私が現場にいなくても彼らが仕事を回せるように、社員には現場管理や人材育成を任せました。
従業員に何らかの指標を持って仕事に取り組んでもらうことで、責任感が生まれ、結果的に作業の効率化や経営者目線での考え方の共有ができるようになると考えたんです。最初は作業終了時間の目安を伝えてみたり、時間までに終わらなかった場合は原因を一緒に深堀ってみたり。品目や作業、面積に応じた担当制を設け、トライ&エラーを繰り返しながら少しずつ裁量を広げていくようにしました。私も失敗を繰り返して成長した経験があります。従業員にもまずはチャレンジすることを大切にしてほしいと思います。
Q6.「組織」として農園を運営・拡大していく為に工夫していることはありますか?
A.会社としてのルール作りを行った。
家族経営から法人化したため、社員を雇用するとなったとき初めての経験で苦労しました。そもそも一般企業のようにあらゆる業務にルールもなく、私がサラリーマン経験があったわけでもなかったので、上手くいかないことが多々ありました。
働きやすい環境を整えるために、クロスエイジさんにお手伝いいただきながら作業マニュアルや人事評価制度などのルールを作ることとしました。やはり口頭で伝えるだけでは、覚えきらないこともたくさんあるかと思います。社内ルールや作業指示に関してはしっかり文章化させ、見える場所に掲示するようにしています。機械操作など細かなマニュアルについては写真付きで残したりもしています。もう一歩先に進むために、正社員が活躍できるよう事業体制を更に整える必要があると思っています。今後5年間で倍くらいまで事業拡大したいです。
Q7.6次化産業として「もっちりニラ餃子」の販売に至った理由は何ですか?
A.多くの人に弊社の野菜を食べてほしかったから。
私はもともと出会いを大切にするタイプで、若手農家の勉強会や交流会に積極的に参加するようにしていました。そのような中、ある方から「せっかく良いニラを作ってるのだから、餃子屋さんを紹介するよ。」とお声がけいただきました。最初はラーメン屋向けの業務用餃子を開発したのですが、嬉しいことに好評となり、取引開始から1年足らずで一般販売をはじめるに至りました。
自分たちの作った野菜を食べてもらえることは非常に喜ばしいことです。私自身健康的に過ごすことができていますが、それはやはり新鮮な野菜を毎日食べていたからではないかと思っています。生の野菜を食べてもらうことはもちろんですが、餃子のように新たな形になって食べてもらうことも、また違った形で弊社の存在が広がってとても嬉しく感じます。
Q8.近隣の方や農業関係者との関係性のつくるコツはありますか?
A.幅広く情報収集し実践するため、積極的に質問を行う。
特定の人や考えではないですが、気になったことがあれば農家仲間や先輩農家など、色々な方に質問し情報収集するようにしています。手間を取らせてしまって悪いと思うこともありますが、「知りたい」という気持ちが先行してどんどん確認しにいきます。設備投資に関しても、先例で行っている方がいれば情報を伺いに行き、費用対効果を徹底的に計算し、導入検討を行っています。
Q9.クロスエイジはどんな存在ですか?
A.目標に向かって寄り添ってくれる伴走者。
クロスエイジさんとの出会いは、私が藤野さんの著書を読んだことでした。その後、農家の勉強会に講師として藤野さんが登壇してくださりお付き合いが始まりました。
クロスエイジさんは弊社の目標に向かって伴走してくれる、パートナー的な存在です。ただ伴走するだけではなく、目標に向かって切磋琢磨し寄り添ってくれる存在ですね。 月に1回のミーティングだけでなく、疑問に思ったり引っかかった部分があればチャットや電話ですぐに対応して答えを出してくれるので、本当にありがたいと思っています。
Q10.売上1億円突破に向けて注力したいことを教えてください。
A.土地の条件と品目選びの見極めに注力したい。
やはり安定的な生産・出荷体制を維持し続けることが最も重要であると思っています。そのためには基盤となる土作りが大切です。新しく借りる畑の土壌を分析し、様々な条件に応じて上手く作物が育つよう試行錯誤していきたいです。悩むことも多いですが、それもまた楽しみのひとつです。楽しみながら基盤を整え、事業拡大に向けて進んでいきたいです。
Q11.長沼さんの今後のビジョンと代表として目指す姿を教えてください。
A.明確な目標を掲げ、3年以内に売上2億円を目指す!
目標を掲げ、目指すべき場所を示す存在でありたいです。会社の方向性を定め、従業員が安心してついてこれるよう気持ち的にも安心できるようにしていきたいと思っています。農業法人も増えてきていて、売上を伸ばしていく会社が多いように感じます。弊社も3年以内に売上2億円を目指していきたいです。
また、いずれは障害者雇用も検討しています。「障害者が働きやすい環境は、健常者も働きやすい環境に繋がる」という考えを以前聞いたことがあります。そこに共感し、チャレンジの幅を広げていくためにもいずれ取り組んでみたいと思案しています。今は福祉作業所の方に来てもらい、細分化した作業に一部取り組んでもらっています。将来的にはもっと拡大して農福連携に取り組んでいきたいですね。
様々な視点から包括的にバランス良く、事業拡大に向けて取り組まれてきた長沼農園さま。土壌の研究から人事制度まで、安定した生産を持続できるように取り組まれた工夫について伺うことができました。長沼さんの情報収集力と実践力があってこその着実な成長だと感じました。
長沼さん、今回は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
(執筆:たかたゆり/編集:柴萌子・ひのりほ)