
株式会社 尾原農園さま突撃インタビュー
農業をもっと楽しく:ピーマン農家が実践する新しい経営のカタチ
2015年に法人化し、今年で11期目を迎えた株式会社 尾原農園。
代表の尾原 由章さんは、実家のピーマン農家を継ぎ、事業拡大に尽力。 法人化後は経営者としての顔に加え、勉強会の主催や多くの団体で会長を務めるなど、幅広い活動を展開されています。
尾原さんが農業において最も大切にしているのは「楽しさ」。その「楽しさ」を組織づくりや農業の活性化の中心に据える理由とは何か。その背景と経営への向き合い方についてお伺いしました。
目次[非表示]
Q1.就農のきっかけを教えてください。
A.結婚を機に、農業で食べていくことを決意。
1978年にピーマン農家の長男として生まれ、広島の大学の情報工学部を卒業後、地元の一般企業に就職しました。しかし当時の職では10数年先のビジョンを描くことができない部分もあり、25歳の結婚のタイミングで親元に戻り「農業で食べていく」ことを決意しました。
とはいえ、20代の頃は自分がなりたい姿は見つかりませんでした。時代背景も相まって、地方では成功体験を得る機会も少なく…。施設園芸の産地で親が農家の同級生も多く、農業を家業とすることは自然な流れでした。
Q2.農業経営者として意識が変わったきっかけは?
A.海外研修を機に視座が高まった。
2004年の就農から5年間は父親のもとで学び、2008年の規模拡大のタイミングで事業継承、2015年に法人化に至りました。勉強は好きだったので、栽培について先輩農家にアドバイスをもらいに行ったり、農協のコミュニティや若手農家の集まりにも積極的に参加していました。とはいえ法人化までの10年間は、ひたすらハウスの中で植物と向き合うことが楽しく、夢中になっていました。
そこから意識が変わるきっかけとなったのは、35歳の時に県が主催するオランダ研修に参加したことが大きく影響しています。見えていた視座が大きく変わりこれまでの行動が中途半端であったことを感じました。そこからは産地全体の底上げを目的として、1つ1つの課題に根本からアプローチすることに。環境制御に関するスタディクラブを立ち上げ、県の支援や補助金をしっかり確保し、地域を超えての情報交換や人脈拡大、ある時は政策提言も行いました。
また、出荷先はほぼJAとはいえ、プロダクトアウト的な視点だけでは、流通過程の本質的な理解や、消費者の声を汲み取りにくいと感じました。そこで一部直接販売を始め、そこでの学びをJA出荷分に活かせるような動きをとっています。
こういった行動を経て、産地・自社の事業の進行感が早まり、今後の目標やビジョンも明確化されてきました。
Q3.尾原農園として大切にしていることは何ですか?
A.突出することよりも淘汰されず存続し続けること。
尾原農園の経営において大切にしているのは、「突出することよりも淘汰されず存続し続けること」です。農業は継続性のある業界なので、長く地域に寄り添い、安定した経営を続けていきたいと考えています。尾原農園を、心の豊かさを取り戻してもらえる「人間再生農場」のような場所にしていけたらいいなと思っています。なんのために都会で働いているのかわからず、疲れ果てている人はたくさんいると思います。そういう人の受け皿になりたいです。
ただ、これからは会社として、組織として社員のために役割を与え、リーダーとして成長できるよう促していく覚悟も必要だと思います。全員でルールを作り、当事者意識を持って取り組む組織へと変化していくことが課題です。急がず、焦らず、ゆっくり丁寧に進むことを忘れずに、尾原農園の改革を進めていきたいと思います。
Q4.今後、産地として価値提供できることは何ですか?
A.次世代の経営者が成長できる場の提供。
今後、高知県として必要なこと、提供すべきものは「次世代の経営者が成長できる場」だと考えています。そこで、農家を経営者として育てる「安芸虎農業経営塾」というグループを立ち上げました。グループディスカッションをしながらアウトプットの機会を設けているんです。栽培技術を学ぶ環境は多いですが、人とコミュニケーションが取れる場は限られているので、人前で話したり、意見をすり合わせるなど会話力の底上げのための場を提供したいと思いました。
人によって成長欲や考え方は多様なので、強制はしませんし来たい人が来れるコミュニティでありたいです。農業経営者としての成長の場を提供し続けることで産地に価値をもたらせると思っています。行政や農協の取り組みはどうしてもボトムアップになりがちですが、これからの時代には、「トップが全体を引っ張るリーダーシップ」を持ち、それを発揮できる能力が必要なんだと思います。
Q5.クロスエイジはどんな存在ですか?
A.今の尾原農園に必要な存在。
今の尾原農園にとって、クロスエイジさんは欠かせない存在です。私が見落としている点やできていないことを明確にし、整理してくれるんです。1対1で話すことで初めて得られる知識が本当に多くて、特に代表の藤野さんのサポートにはいつも感謝しています。
Q6.今後のビジョンを教えてください。
A.市議会議員への立候補を通して地域をより良く変えていきたい。
会社を引っ張っていく社長としてのビジョンは、社員中心の役割を持たせた組織づくりを目標としています。私が担っていた役割を社員に委ねていきたいです。ただ作業をするだけではなく、社員自ら考えて成長できるよう育てることが大切だと考えています。
また、この度長年父親が務めてきた市議会議員へ立候補します。その理由としては高齢の父親の引退ということもありますが、地域をより良くしていきたい、若者が成長できる土壌を作りたいという想いがあります。そして、自分の仕事が楽しい!と心から思えるよう、根本から変えていきたい。やりたいことを楽しんでいる私だからこそ、そう思います。未来が見えれば仕事も楽しくなるはずです。
経営者となり、様々なコミュニティの役割を任される中で、法人協会や中小企業同友会、他事業などを通した人とのつながりやコネクションが広がりました。学びや繋がりを通して視座が高まって役割が明確になったと感じています。尾原農園の社員に対しては、社員ひとりひとりが未来を見据えて仕事を楽しんで欲しいと思っています。会社として大きく成長することを一番の目的としていないので、経営者としては珍しい考えだと思います。とはいえ、経営の軸や方向性について社員全体での共通認識を深めたいです。
農家として、経営者として歩んできました。さらにその先へと進んで行きます。
就農から20年近くの歳月を経ながらも着々と規模を拡大してきた尾原農園。その成長の背景には、短期的な成果に留まらず、時間をかけて農園を育んできた尾原さんの「成長を楽しむ姿勢」が大きく影響しているのだと感じました。経営者としてだけでなく、若年層経営者の育成や地域活性化の活動、市議会議員への立候補など、多方面で活躍される中で、尾原さんのため常に大切にしているのは「楽しさ」と「人」への想いでした。
尾原さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
(執筆:柴萌子/編集:ひのりほ)