
売上1億円の先にあるもの。品目を絞った経営戦略と地域農業への想いとは。
福岡県朝倉郡筑前町で、ブロッコリーやスイートコーン、ほうれん草、ハウス小松菜を栽培する興膳農園さま。代表の興膳賢人さんは、29歳で就農し、売上1億円を目標に掲げながら、規模拡大や組織づくりに取り組んできました。
就農から11年。品目選定や人材育成、経営理念の策定など、その時々の課題と向き合いながら、現在は売上1億円を超える経営体へと成長しています。
今回は、就農のきっかけから現在までの歩みと、地域農業の未来を見据えた今後の展望について伺いました。
Q1.就農のきっかけを教えてください。
A.「農業以外の経験」が、今の経営の土台になった。
実家が農家だったので、最終的には農業をやるっていう気持ちはどこかにありました。でも、最初から継ぐつもりではなかったんですよ。
一回は外の世界を見てみたいと思って、不動産会社に就職しました。営業の仕事を8年間経験して、組織のことや人との関わり方も学べましたし、その経験は今の経営にもすごく活きています。
ただ、ずっと「いつかは戻ろう」という気持ちはありました。
地域を見ても担い手は減っていくし、農地もこのままでは守れなくなるかもしれない。そう考えたときに、「今このタイミングを逃したら、たぶん一生戻れん」と思ったんです。
会社に残れば安定した生活もできたと思います。でも、自分が本当にやりたいことを考えたら農業でした。だから思い切って就農を決断しました。
Q2.売上1億円を達成するまでに、一番大きな転機は何でしたか?
A.品目を絞る決断が、利益を生み出す経営へ変えた。
父が土地利用をしていたので、利益率を考慮したとき、野菜の方が確実に儲かると考え、父の経営とは別で新規就農しました。
5,000万円突破までは人の入れ替わりも激しく、全然利益残らないし資金繰りも大変でしたね。
そんな中で、一番大きかった転機は、品目を絞ったことですね。
就農した頃はいろんな野菜を作っていました。売上を伸ばしたいと思ったら、品目を増やした方がいいと思ったんですよ。実際、キャベツやリーフレタス、赤紫蘇、オクラなど、本当にいろんな品目に取り組んできました。
でも、品目が増えれば増えるほど、管理が複雑になるんです。播種や収穫のタイミングも違うし、作業手順も変わる。社員や外国人スタッフへ教える内容も増えて、誰でも同じ品質で作業できる仕組みを作るのが難しくなりました。
売上は上がっているのに、利益が思うように残らない。「このままで本当にいいのかな」と考えるようになりました。
そんなときに、「品目を絞ってみたらどうか」というアドバイスをいただいたんです。
正直、最初は不安でした。「売上が下がるんじゃないか」という気持ちはありましたし、今まで積み上げてきたものを手放すような感覚もありました。
でも思い切って決断して、現在のブロッコリー・スイートコーン・ほうれん草・ハウス小松菜を中心とした経営に切り替えました。
すると、作業が標準化できるようになって、人も育てやすくなりました。品質も安定して、お客様からの評価も上がり、結果として売上も利益も伸びていったんです。
昨年は補助金を含めて売上1億円を突破しました。純粋な販売額ではあと少しというところですが、自分の中では「10年で売上1億円」という目標を一つ形にできたかなと思っています。
今振り返ると、「品目を増やすこと」が成長ではなく、「自分たちの強みに集中すること」が成長につながったんだなと思います。

Q3.組織づくりで一番大切にしていることは何ですか?
A.「自分が動く」から「組織が動く」仕組みづくりへ 。
昔は何でも自分でやっていました。
でも会社が大きくなるにつれて、それでは回らなくなったんですよね。だから今は、「自分が動く」よりも、「組織が動く仕組みを作る」ことを意識しています。
週次MTGの実施は単純ですが、効果が大きかったです。個人で連携していても全体ですり合わせると認識の齟齬が大きい。
そこをしっかりコントロールして共有し合うことで、無駄な確認や誤解がずいぶん減りました。
他にも、社員の役割を整理したり、業務分担を明確にしたり、一つひとつ積み重ねながら組織を整えてきました。実際、役割表を作ったことで社員全員が劇的に変わったわけではありません。でも、自分自身の頭の中が整理されたことがすごく大きかったです。
「あの仕事は誰に任せよう」「これはこの人が担当した方がいいな」と判断しやすくなりました。
今では外国人スタッフも、先輩スタッフが後輩を教えてくれるようになっています。
最初からうまくいったわけではありません。少しずつ役割を任せて、失敗もしながら積み重ねてきた結果だと思っています。
組織づくりって特別なことじゃなくて、本当に一つひとつ積み重ねていくしかないですね。

Q4.経営理念ができて、ご自身にどんな変化がありましたか?
A.経営理念が、迷わない経営者としての軸になった。
一番変わったのは、周りの声が気にならなくなったことですね。
メディアに出たり、新しいことに挑戦したりすると、いろんなことを言われることもあります。昔は多少気にすることもありました。でも経営理念の“未来に繋がる種をまく”が自分の中でしっかり決まってからは、「自分が決めたことをやるだけ」と思えるようになりました。
地域の農業を守りたい、日本の農業をもっと発展させたい。
東京の農業サミットに参加したときも、全国で活躍している経営者の皆さんが同じような経験を話されていて、「やっぱりそうなんや」と思いましたね。
経営理念は社員に向けた言葉でもありますけど、それ以上に経営者自身が迷わないためのものだと思っています。
Q5.今後のビジョンを教えてください。
A.売上拡大の先にあるのは、地域農業を未来へつなぐこと。
今は売上1.5億円を目標にしています。
ブロッコリーを中心に、ほうれん草、ハウス小松菜、スイートコーンの生産体制をさらに強化していきたいと思っています。将来的にはブロッコリーの栽培面積を50ヘクタール規模まで広げることも目標の一つです。
ただ、生産だけを大きくしたいわけではありません。生産だけでは2億円、3億円くらいが一つの限界だと思っていますし、天候にも大きく左右されます。
だから将来的には、自社でカット野菜や冷凍加工まで取り組める体制をつくって、農産物の価値をもっと高めていきたいですね。
そして、一番大事なのは地域の農業を守り続けられる会社にすることです。
筑前町でも担い手は確実に減っています。だからこそ、自分がいなくなっても会社がちゃんと続いて、農地を守れる組織をつくりたい。会社そのものに価値があれば、次の世代が引き継いでくれるかもしれないし、地域の農業も未来につながっていくと思うんです。
売上を伸ばすことがゴールではありません。地域に必要とされる農園であり続けること。それが、これからの興膳農園が目指す姿です。

今回のインタビューで印象的だったのは、「売上1億円」はゴールではなく、あくまで地域農業を未来へつなぐための通過点だという考え方でした。
品目を絞るという経営判断、組織づくりへの地道な取り組み、そして経営理念を軸に意思決定を行う姿勢。その一つひとつの積み重ねが、現在の興膳農園さまの成長につながっています。
担い手不足や気候変動など、農業を取り巻く環境が大きく変化する今、「自分がいなくても農地を守り続けられる会社をつくる」という興膳さんの言葉は、多くの農業経営者にとって大きな示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
興膳さん、貴重なお話をありがとうございました。









