一般財団法人みらい創造財団 朝日のあたる家さま中間インタビュー
地域産業と社会参加を支援すべく、農福連携に取り組む。
株式会社クロスエイジ(以下、クロスエイジ)は、「大規模農業経営の安定した人材確保と経営」「障がい者の農業現場での活躍」ができる地域や社会を目指すべく、休眠預金活用事業における資金分配団体として、農福連携推進のために活動する6実行団体の支援を行っています。
今回は本プロジェクトの実行団体である、一般財団法人みらい創造財団 朝日のあたる家の事務局次長 事業統括責任者・鈴木拓さんに休眠預金活用事業に申請したきっかけや事業発案への想い、今後の展望についてお伺いしました。
朝日のあたる家さまの休眠預金活用事業の事業内容ついて教えてください。
元々農福連携を行っていましたが、今回の事業ではコンソーシアムで8つの農家と1チームになって農福連携を推進しています。これから就労支援事業所を立ち上げて、今回携わる8つの農家の生産拡大や人材確保をサポートさせていただく予定です。また、コンソーシアム以外の農福連携案件も扱っているため、就労支援事業所を建てた後は、地域の農家にも同様のシステムでサポートし、全体の底上げに貢献したいと考えています。
現時点では、まだ朝日のあたる家で就労支援事業所を立ち上げていない段階ですが、コーディネーターとして11箇所ある地域の就労支援事業所に仕事を振り分けています。引きこもりなどの就労支援が必要な方や生活困窮者に対しても、障がいの有無に関わらず大きな枠で就労支援として農福連携を行っています。
休眠預金活用事業に申請したきっかけを教えてください。
自治体では農福連携に関する助成金や予算が組まれておらず、活用できる支援を探していたところ、クロスエイジの休眠預金活用事業の公募と出会いました。最初は自前で仕組みを作ろうと考えていたのですが、この公募に出会い、コンソーシアムの活動で応募できるようこれまでの計画を一旦ゼロにして事業転換を図りました。
私自身前職で福祉に携わっていた観点から、農業と福祉は親和性が高いと考えています。農家が負担している単純作業や専門性がなくてもできる単純作業を障がい者の方々に代わりに行ってもらうことで、雇用が生まれるだけではなく、農家の方々にとっても経営に注力できるので利益拡大のチャンスとなります。利益が増えればさらに障がい者の方々の仕事も増えるため、お互いにwin-winの関係性を築けるのではないかと考えていました。
また、私たちの地域には大規模農家が少ないですが、コンソーシアムで複数の農家が1チームとなることで仕事の幅が広がるメリットを得られました。
一般的な農福連携は、農家と事業者が1対1で行うため仕事内容も限られます。さらには、農家の仕事の切り出しや福祉への理解が足らず、うまくいかなかったらやめるといったことが多く、機会損失が生じてしまいがちです。
しかし、朝日のあたる家では、全ての連携においてコーディネーターとして間に入るため、農家と福祉の双方における通訳ができる点が強みです。農家と福祉がうまく連携できるよう、双方の言語の通訳だけではなく、福祉を導入した効果を見える化させることで、農福連携に取り組むきっかけを作っています。農家と福祉が良い関係を築くには、中長期的な視点を持つ必要があると考えているため、定着するための工夫や福祉的な配慮などのコーディネーターの観点を農家にレクチャーしています。
事業発案には、どのような想いがあったのでしょうか?
私は以前、障がい者の介護や就労支援の相談員として働いていました。その中で、福祉の現実に対して疑問を抱き、朝日のあたる家としての新事業を立ち上げるに至りました。ニュースでは障がい者雇用が増えていると報じられていますが、実際には社会参加や雇用に繋がらない方々が多く存在していることを知り、何とかしなくてはならないという使命感を感じました。
まず、福祉の現場では就労を求める方のサポートには長けていますが、企業や農家への新規開拓営業は苦手です。福祉の肩書では、企業側から「また福祉がお願いにきた」と思われてしまい、受け入れられにくいのが現状でした。私は当時、地域の雇用の受け皿となり社会課題に取り組むことの重要性を伝えることができず、悔しい思いをしました。しかし、朝日のあたる家に所属して一般財団法人として活動することで、「社会課題に取り組むため」という目的を前面にアピールできるようになり、企業や農家からの理解を得やすくなりました。また、障がい福祉では障がい者のマッチングしかできないため、企業や農家のニーズに合わせた多様な農福連携が難しいですが、「朝日のあたる家」では、障がい者だけでなく社会参加を希望する方々も農家と繋げることができるため、より広い視点で社会課題の解決を目指しています。
次に、障がい者雇用の公的な窓口である障がい者就業生活支援センターで働くカウンセラーの負担を目の当たりにしたことです。彼らは多くの障がい者の雇用をサポートしていますが、カウンセラーの人数は限られており、業務の多さや責任の重さで潰れていく人も多いです。この問題を社会課題としてインパクトを持ってアピールし、解決に向けて取り組むことを決意し、「朝日のあたる家」で新規事業となる就労支援コーディネート事業を立ち上げました。
福祉を辞めたのは4年前で、新規事業を立ち上げたのは2、3年前です。事業は順調に進んでおり、実績を積み重ねています。今回の公募に出会い、さらなる事業拡大を目指しています。
現在の休眠預金事業の状況を教えてください。
2023年度は、農福連携に必要な業務を検証する期間とし、問題点や改善点を把握したり、自治体を含めた各関係機関との連携調整を行う「実証」の1年でした。今年度は、その結果を基に就労支援事業所の開設に向けた事業計画の作成や、障害福祉サービス事業の指定申請、就労支援事業所の場所の確保などを進めています。
就労支援事業所の開設場所は、つい先日確定して、現在準備が進んでいます(取材日は2024年5月28日)。今年度の結果が出れば、開設予定の就労支援事業所の規模も明確になってくると思います。その際、農福連携案件だけでは仕事が不足する部分を、産福連携(※)案件で補いたいと考えています。
※産福連携:産業と福祉をつなぐ連携のこと。地域企業や地域産業から必要とされる人材や業務を福祉とマッチングするコーディネートを行う。
今後の休眠預金事業の予定を教えてください。
農家ではない団体が確保するのが難しい1,000坪の場所を、ご縁があって確保できそうです。その土地には事務所2棟と大きな倉庫があり、共同で使用できる冷蔵庫と冷凍庫、そして野菜や果物の重量選別機を設置する予定です。サポートさせていただく農家のほとんどが小規模で、こうした設備を持っていないために生産拡大が難しい現状があります。また、必要な人材も年間雇用が難しく、季節アルバイトで補っています。今後は農福連携を通じて生産体制をサポートし、生産拡大を目指しています。生産拡大に伴い、収穫された作物を冷蔵保存できる場所が必要になるため、新しく確保する予定の倉庫を活用したいと考えています。
朝日のあたる家の活動地域はリンゴ農家の多い東北です。各農家が生産規模を拡大し、共同貯蔵施設を利用することで、安定した出荷量を確保し販路開拓を進めることができると考えています。
将来的には物流と連携し、運送拠点としての役割も果たしたいと思っています。小規模農家の利益を増やすためのハブを作るために理想的な場所でした。
また、バイヤーに対しては、農福連携というストーリーを伝え、地域課題に取り組んでいる事業体からの生産物であることをアピールすることで、付加価値を高めることができます。農福連携に取り組む事業の背景を示すことで、社会的な賛同を得られるようにしたいと考えています。大手バイヤーが求めているSDGsの観点からアピールし、企業や社会支援団体から賛同と協力を得ることができればと思っています。
さいごに
福祉分野にとどまらず、社会課題を解決する一助になりたいという想いをエネルギーにここまで来れました。あの時、クロスエイジさんの公募を見かけなかったら、構想がここまで広がらなかったと思います。事業はまだ始まったばかりですが、朝日のあたる家が取り組む前例のない農福連携の手法や福祉が直面する課題をもっと多くの人たちに知ってもらいたいです。
(執筆:ひのりほ/編集:柴萌子)