有限会社ファームランド豊さま突撃インタビュー
栽培品目を工夫して売上アップ。
経営センスも兼ね備えた日本一のスナップエンドウ農家。
平成7年に法人化された有限会社ファームランド豊さま。
代表の松下寛和さんはお父様から事業を承継し、売上を3,000万円から9,000万円へと増やしました。売上を増やした背景には人材不足があり、まずは経営基盤や栽培品目の見直しから取り組まれてきました。
今回は、松下さんが就農してから工夫したことや取り組まれたことなどを通し、農業法人を運営するうえでのヒントとなるお話を伺いました。
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Q1.就農のきっかけを教えてください。
A.上京して好きなことをやり尽くしたので、実家を継ぐ覚悟が芽生えた。
農業を営む両親のもとで生まれ育ち、大学は東京農業大学に通っていました。その後、28歳の頃に就農しました。農業が心から好きなのではないかと思われる経歴ですが、実のところ、若いころは音楽活動に明け暮れる日々を過ごしました。東京に行きたかったために大学に進学したようなものです(笑)。
幼い頃から農業に対して「天候に左右される大変な仕事で、好きではないとできない」と、ネガティブに考えていました。しかし、ドラマーをしながらいつかは実家を継がなくてはならないと思っており、鹿児島に戻るのだという予想がついていました。好きなことをやり尽くしたと感じたため、就農を決意しました。
ただ、農業や経営に関する知識が全くなかったため、実家に戻る前に、まずは派遣会社で働きながら会計学を学び、決算書をある程度読めるようになりました。当時の売上は3,000万ほどで、販売先はJA、従業員は地元のパートさんのみを雇いながら、さつまいもとスナップエンドウを育てていました。
Q2.就農当初から栽培品目が増えた背景を教えてください。
A.「人を雇う」という目的から逆算し、栽培品目を増やした。
パートの方々が介護で辞めてしまい、新しい従業員がなかなか集まらなくなってしまいました。その段階で、通年雇用で仕事を保証する必要性を感じました。毎月売上を立ててキャッシュが入る仕組みを作らなくてはならず、栽培体系を変更し、ポートフォリオで栽培品目を組んでいました。
これまでの流通先であるJAですと、売上の見立てが分かりません。販売先を変え、スーパーや商社への直接販売を試み、お客様のニーズを把握しました。私の父親がオーナーだった頃は、直接販売を行っていたために、年間売上が1億円を超えていました。しかし、指定病害虫の発生によって、さつまいもを4年ほど出荷できなくなり、契約が切れてしまい、代わりにイチゴの観光農園を行うことで経営を維持していました。ただ、その当時の人脈を改めて活かして、直接販売を再開しました。
また、1品のみの栽培ですと、父親の代と同じように害虫が発生した場合に経営が苦しくなってしまう可能性があります。リスクヘッジもかねて栽培品目を増やしました。今はスナップエンドウ・白オクラ・エダマメ・サツマイモ・ジャガイモを栽培しています。
スナップエンドウが栽培面積日本一となったのも、元々そのポジションを目指したかった訳ではなく、事業がスケールした結果でした。規模を拡大すると同時に、作業の平準化・品質の安定化も一層注視しなければなりません。そこで設備投資を行い、スナップエンドウの圃場全体に潅水施設を設置しました。当初は反対されましたが、事前に仮説立てと実験を行い成功する見立てをつくることができたので、やってみることにしました。結果、収量としては30%ほど上がりました。
Q3.栽培品目を決める際の戦略的な取り組みを教えてください。
A.栽培が難しい白オクラで、市場での価格決定権を握ることができた。
ただ単に作物を栽培して出荷するというよりは、ビジネスの観点で栽培品目を決めています。とりわけ白オクラはニッチな品目で認知が難しいため、マーケティングコストをかける必要がありますが、うまくいけば競合が少ないために価格決定権を得られやすいです。ニッチな品目である以上、営業を行うにあたり+αでの差別化できる強みが必要であると考え、100万円かけて機能性表示の認証も取得中です。
というのも、元々普通のオクラを栽培していたものの、夏に赤字が続いていましたが、他の鹿児島の農家も同様で、夏の赤字分を冬で補うスタイルをとっていました。私もその選択肢を考えていましたが、コストがかかるデメリットがあり、考えあぐねていた矢先に取引先の商社から白オクラの種をいただき作ってみたところ味が良かったため、代わって栽培することになりました。白オクラは生産が難しい作物のため、ほとんどの農家が撤退している現状でしたが、成功すればマーケティングや営業に多くの工数をかけなくても市場を獲得でき、夏場の黒字化を実現できると考え、思い切って栽培に踏み切りました。
Q4.売上を伸ばすために注力したポイントを教えてください。
A.「人」に投資した。
経営において、顧客満足度を高めるためにはまず従業員満足度を高めなくてはならないと思っています。従業員の技術が定着することで高品質な作物を出荷でき、ひいては利益にも繋がると確信したため、まずは正の循環を生み出していきたいと思い、借金を覚悟して採用に資金を投下しました。初めのうちは人材が集まらず、苦労しました。
人手の確保のために、まずは外国人労働者を充実させたものの、面接だけでは人となりが分からず、途中で逃げてしまったり辞めてしまうことも多々ありました。そのような中で株式会社YUIMEさんと出会い、派遣で来た方々の中で優秀な方を見つけて、お声がけして転籍をお願いしたことで、ミスマッチがだいぶ減りました。現場の作業が回転し始めたのち、日本人の採用を行いました。
現在は、有給取得率は100%ですし、1日の労働時間も7時間で、従業員にとって働きやすい環境となりました。資格を取得することで給料が上がる仕組みとなっているため、残りの時間を自学に充てる等してもらい、従業員それぞれが主体的に自走できる環境を整えました。
Q5.経営において、大変だったことはありましたか?
A.結果を出すために手段を選ばなかった。
プロダクトアウトとしてまずは作物を試しに作ってみて、お客様からの反応を確かめながらトライアンドエラーを繰り返しながら出荷していました。初めのうちは赤字を覚悟して取り組みましたね。赤字が続いて辛かったですが、どちみち構造改革をしないと、潰れてしまう可能性は先延ばしになるだけで。通年雇用をつくるため、苦労を惜しまず進めていきました。
経営で困った時には、両親と私の3人で話し合いをしながらお互いの立場や、それぞれが所属するコミュニティ等から得た知見を共有し合いました。物の投げ合いをするほどのケンカもしましたが、率直な意見を聞けて良かったです。
昔は両親が、生産販売と経理それぞれの立場から経営の方向性について衝突している場面を目にしていました。でも、双方とも言っていることは正しくて、私自身正しい結論が何なのか分からず大いに悩みました。そこから、経営者としてそれぞれの立場のニーズ・考え・想いをバランスよく汲み取るための勉強をする必要性を感じたんです。常にインプットを欠かさず、コンサルティングや講座を受けるだけではなく、特に私は本が好きなので経営に関する本は10年間で300万円ほど投資しました。
Q6.クロスエイジはどんな存在ですか?
A.目標に向かって寄り添ってくれる伴走者。
クロスエイジさんが小規模だった頃から存在を知っていました。その頃、私は事務所を訪ねて社員の方と少しだけお話しさせていただきました。結局取引はありませんでしたが、ご縁あって再会してコンサルティングを受けています。
異質の組み合わせである農業とベンチャー企業を掛け合わせたクロスエイジさんに興味がありました。当社には課題が山積されているため、農業で実績のあるコンサルタントにサポートいただきたかったんです。そのような時にクロスエイジさんは頼りになりました。お互いに意見の交換をしながら、壁を突破していきました。
Q7.今後のビジョンを教えてください。
A.スケールに強いマネジメントシステムの構築と、輸出も視野に。
毎年、売上・利益ともに10~20%アップしていますが、お客様から満足がないとこのサイクルは続きません。お客様からの声を反映しながら、PDCAを回して愚直に実行しなければならないと考えています。
短期的には、藤野さんにサポートいただいているマネジメントの仕組み作りを充実させたいです。稼ぐ仕組みの土台はできているので、スケールさせても負荷がかからないマネジメント基盤を作ることが2~3年の課題です。
長期的には、スナップエンドウの輸出をしてみたいです。来年、地元に冷凍工場が立ち上がるため、その工場と連携しながら輸出できる環境を作れたらと思います。とはいうものの、従業員の幸せも守っていきたい。また、生産基盤がしっかりしていれば6次化はいつでもできると考えています。6次化を視野に入れることはあるものの、喫緊で取り組むことではありません。この10年間は幹を太くさせることが大切でしたが、それがあるからこそ攻めの姿勢ができるのだと思います。
Q8.松下さんご自身はどのような姿を目指していますか?
A.「農業=儲からない」という先入観を壊したい。
私自身のミッションとしては、農業を通して農村の発展に寄与したいです。農業人口は減りつつありますが、その社会課題を解決したい。農業が儲かるビジネスモデルを作ることができれば、自ずと就農したい人が増えると考えています。自分自身のビジネスを成功させることで、就農したい人の憧れとなるようなロールモデルとなれたら嬉しいです。
ゼロから経営やマーケティングを学び、試行錯誤を続けながら事業をスケールしてきた有限会社ファームランド豊さま。ただ単に作物を作って販売するのではなく、利益を出すために戦略的に栽培品目を決めるなど、農家としての視点だけではなく、優秀な経営者としての視点も持ち合わせていらっしゃると感じました。
松下さん、今回は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
(執筆:柴萌子/編集:ひのりほ)