株式会社シトラスプラスさま突撃インタビュー
売上1億円超の柑橘農家が語る
組織づくりのポイントと経営者が持つべきマインド
農業で地方経済の一翼を担うべく、新たな柑橘農業の確立を目指す、株式会社シトラスプラスの代表・上野勉さん。
国内で早期にハウス柑橘栽培へオランダ式の環境制御を導入したことで、生産拡大と作業の平準化が困難とされる果樹栽培において雇用型経営を実現されました。
今回、佐賀県唐津市から国内の農業界全体の発展を目指す上野さんに「成長の秘訣や組織づくりのポイント、経営者として大切にしているマインド」についてお伺いしました。
目次[非表示]
- ・Q1.法人化したきっかけと売上規模、当時の状況を教えて下さい。
- ・Q2.売上5,000万円を突破したとき、どんなことをしていましたか?
- ・Q3.売上1億円を突破したとき、どんなことをしていましたか?
- ・Q4.果樹は作業を平準化しにくく雇用も難しいと思いますが、作業がない時期の仕事はどうされていますか?
- ・Q5.組織づくりの観点で、人を雇用する際に気をつけているポイントはありますか?
- ・Q6.雇用型経営をしていくためのルールや作業効率化のためにしていることはありますか?
- ・Q7.成長できた秘訣は何だと思いますか?
- ・Q8.経営者自身が何でもこなして手一杯になってしまう…一歩先に進むためにやるべきことは?
\ 農家さんの雇用型経営に関する疑問にお答えします! /
Q1.法人化したきっかけと売上規模、当時の状況を教えて下さい。
A.当時の売上8,700万円、経常利益10%。法人化のきっかけは社員を思う気持ち。
私が就農したのは2010年で、当時は両親と3人の家族経営で売上は1,900万円ほどでした。私たちの地域では、毎月第一日曜日が農休日と決まっていたことから月に1日しか休みがとれなかったり、シーズンになると夜中1時まで残業していたりしました。1,900万円の売上があっても家族3人で所得が300万円ほどだったので、別のところでアルバイトをした方がマシとも言える状況でした。
それから2017年に事業承継し、2019年に法人化をしました。当時の売上は8,700万円で、経常利益は10%ほど出ている状況でした。
法人化のきっかけは、クロスエイジさんのセミナーで代表の藤野さんが「事業を後世に残していきたいのであれば赤字であっても法人化すべき」とおっしゃっていて単純に憧れもありましたが、お子さんを保育所に預けようとしている社員が就労証明書を書く際に、就労先に株式会社がついていると見え方が大きく変わると思ったのです。
Q2.売上5,000万円を突破したとき、どんなことをしていましたか?
A.生産者・経営者として、それぞれの時間を確保していた。
オランダ式の環境制御を導入しました。おそらく日本ではかなり早いタイミングでの導入で、運用をスタートしてから経営状態が良好になりました。
売上が3,000万〜4,000万円に差しかかった頃、節税として倉庫を新設したりしたものの、減価償却ですべてが経費になるわけでもなく、また税金を支払うためにお金を借りなくてはならないといったさまざまな問題が浮上してきたため、その頃からお金の勉強を始めることにしました。
税理士と契約してからは、毎週仲間とレシートを持ち寄って仕分け作業をしていました。このときにはじめて生産と経営の時間を分けて、きちんと経営のことを考える時間を確保する大切さを感じたのです。
Q3.売上1億円を突破したとき、どんなことをしていましたか?
A.雇用開始によって生まれた時間で、大学や篤農家から知識を吸収。
自分だけでできることには限界があると感じ、雇用を始めました。周りで雇用をしている農家さんは少なかったのですが、視野を広げると雇用している農家さんは多く存在していたので、雇用開始に踏み切りました。法人化は家族経営でもできますが、雇用は経営において分岐点の一つになるので、よく検討してから始めるべきだと思います。
人を雇用したことで自由に使える時間が増えたので、佐賀大学農学部の夜間コースに通ったり、毎月のように全国の篤農家さんに会いに行ったりするようになりました。篤農家さんから得られた情報をもとに作業計画を立て、トヨタ生産方式のように年間の作業工程を壁一面に書くこともしましたし、広い視野で柑橘産業全体を見るためにコンサルも入れていました。
Q4.果樹は作業を平準化しにくく雇用も難しいと思いますが、作業がない時期の仕事はどうされていますか?
A.オランダ式環境制御によるハウス柑橘栽培で、常に収穫作業が発生。
年に一度しか発生しない作業もあるため、社員の練度を上げるのは確かに困難です。作業の結果をある程度予測できていても、未だにトライアンドエラーを繰り返している作業もあります。果樹の作業平準化を困難にしている要因は、結果が出るまでの時間の長さです。例えば、新たな資材を畑に入れると翌年に根が生えます。枝が出るのは翌年で、花がつくのはさらに翌年というように、結果が見えるまでに3〜4年かかります。
基本的に、国内の柑橘はゴールデンウィークに花が咲き、9月末から翌年の4月までは収穫できるものがあります。一方、他の産地では5月から8月までは収穫できるものがないのが一般的なので、この時期の作業についてお困りの柑橘農家さんも多いのではないかと思います。
しかし、環境制御を導入したハウス柑橘栽培を行う唐津では、毎月何かしらの柑橘を出荷できます。そのため安定的に作業が発生し、雇用面において有効な対策もとれていると思います。
Q5.組織づくりの観点で、人を雇用する際に気をつけているポイントはありますか?
A.ビジョンの明示と待遇の整備で、就農促進と離農防止へつなげる。
農業に関わりたいという想いやビジョンへの共感など、マインドが原動力となって就農する人が多い一方で、離農の理由として多く挙げられるのは待遇面の不満と言われています。農家は、ビジョンも待遇も両方整えることが大切だと私は思っています。
待遇を改善しても社員のモチベーションが上がらなくても、少なくとも不満はなくなるでしょう。逆に会社にビジョンがなくて不満に思う人は少なくても、ビジョンがあることでモチベーションは上がりやすいのではないでしょうか。待遇は最低条件として、そしてビジョンはあるとより良いものだと考えています。
弊社も雇用を始めた頃は、地元の知人に待遇面の情報を打ち出して採用していたのですが、その後、より詳細な情報を載せている求人サイトから応募してくれた、農業に対する熱意にあふれる社員の姿が印象に残っています。今後はもちろん待遇面は整備していきますが、私たちがどのような想いを持って、どのようなことをやっていきたいのかというビジョンに共感してくれる人を採用したいと思っています。
Q6.雇用型経営をしていくためのルールや作業効率化のためにしていることはありますか?
A.重要な過程に専任を置くこと。果樹の場合は剪定。
作業行程を整理することはもちろんですが、ピンポイントで重要な過程を押さえることを決めるのも大切です。果樹の場合は剪定だと思っており、弊社にいる社員3名のうち1名は、スペシャリストとして一年を通して剪定をしています。
篤農家さんのもとへ伺うとやはり樹の状態が整っていて、それは剪定によるものだと思っています。
Q7.成長できた秘訣は何だと思いますか?
A.さまざまな人に会って広い世界を知り、新しいことに挑戦すること。
さまざまな方に会って、目的や夢を持つことだと思います。私が20歳くらいの頃、4Hクラブの講演で出会った農家さんに衝撃を受けました。その方は売上3億円ほどの農家さんで、やっていることは私たちと同じ農業でしたが、話している姿や講演内容から、農家を超えた異次元な存在だと感じたのです。
当時、JA唐津では売上4,000万円以上の果樹農家をスーパーファーマーと呼んでいて、日本の農業界のトップとさえ思っていました。唐津のスーパーファーマーしか知らなかった自分にとって、講演で出会った農家さんは未知の世界に住んでいる方に思えました。それから、より多くの農家さんのお話しを聞いて刺激を受けたいと思うようになり、全国の農家さんに会いに行きはじめました。
また、新しいことに挑戦するイノベーターが生まれない限り、産地は発展していきません。産地として振るわなかった10年前の唐津では、利益が出ている農家さんたちは挑戦することに消極的で、逆に利益が出ていない農家さんたちがチャレンジして失敗し、離農していくことが多かったように思います。
もちろん守りの姿勢を持つ人も必要ですが、イノベーターとして新しいことに挑戦していくのが、今の私たちの役目だと思っています。私自身が幼い頃から地域の方に育ててもらっていたことから「地域を大切したい」という意識が根本にあり、地域に対して自社ができることはないかと常に考えています。
Q8.経営者自身が何でもこなして手一杯になってしまう…一歩先に進むためにやるべきことは?
A.任せることで、社員が成長する機会を与えること。
決めるところは決めて、従業員に任せていくことだと思います。任せていくことで、弊社で言う剪定のスペシャリストや、農家の方が言ったことを深く理解して現場を回すことができる人が生まれ、どの農家さんでも必要とされる人材になります。JA唐津の柑橘生産は402軒の農家で構成されていて、仮に弊社が潰れても唐津が柑橘の産地であることは変わりません。私たち経営者は会社を継続させることも大切ですが、社員が成長する場を提供することが最も重要だと思っています。
以前、ある農家さんも「経営者がやるべきことは、夢を語って決めること」と仰っていました。重要なのは、会社の目指すゴール・目的を社員に共有し、現状とのギャップを埋めるために走り続けることです。
売上1,900万円という状況から、海外の環境制御の導入や法人化、雇用型経営の開始を経て、現在は売上1億円と成長が止まらない株式会社シトラスプラス。
取材では自社の利益だけでなく、地域や柑橘産業全体にとっての最善を考える上野さんの視野の広さに感銘を受けました。また、お忙しい中、日々勉強に励まれているお姿にも尊敬の念を覚えます。
上野さん、貴重なお時間をありがとうございました。