おとべ農産合同会社さま突撃インタビュー
周辺農家との連携がカギ!
産地の発展を担う農業法人がおこなっている取り組みとは
「相場に左右されない農業経営を産地とともにつくりたい」と農業に取り組む、おとべ農産合同会社の乙部暁さん。
国内有数の長芋産地である青森県で、長芋「ネバリスター」をはじめとする作物を栽培し、多数の受賞経歴や実績を残している農家さんです。
そんな乙部さんに「売上規模の拡大や、地域農家との連携を実現した方法」などをお伺いしました。
目次[非表示]
\ 地域農家さんとの結束を高めるコツをお答えします! /
Q1.法人化したきっかけと売上規模、当時の状況を教えて下さい。
A.当時の売上は8,000万円。家族の賛同を得るために、数年かけて実績づくり。
私は長男ということもあり、昔から家業を継ぐのが当たり前だと思っていました。そのため高校卒業後は、千葉県の農業大学へ進学。継ぐからには単なる後継ぎではなく、【農家経営者】としてさらなる規模拡大を目指していました。
それなりに規模が大きな農家だったこともあり、私が東北町に戻ってきた2011年の売上は5,000万円ほど。法人化したのは2015年です。私が就農して4年目のタイミングで、売上は8,000万円ほどでした。
法人化は就農時から考えていましたが、私たちの地域には農業法人が少なく、法人化に対して消極的な農家が多かったように思います。したがって、就農してすぐに家族の賛同は得られないと思ったため、取引先を増やすなど実績を積み上げた上で打診しました。
農家団体の研修で出会ったクロスエイジさんや農業法人さんとお話しすると、目先の利益だけでなく、将来の展望やその実現のための取り組みに目を向けている方ばかり。私も視野を広げて、地域の農業を盛り上げていきたいと思いました。
Q2.売上1億円を突破したとき、どんなことをしていましたか?
A.出荷量を増やすため、周辺農家と関係性を構築。
私たちが主に扱っている長芋は、特性上、自分たちだけで生産拡大するには限界があるため、地元農家さんの力を借りることに。他の農家さんが栽培した長芋を、手数料をいただき「おとべ農産」として一緒に出荷することで、売上を伸ばしていきました。
そのために、周辺農家との関係性の構築にも力を入れていました。私たちの地域には若い世代の農家が多く、ライバルではなく仲間と思ってもらえるように、地域の団体・組織への所属や、集会などに積極的に参加。若い農家は親との衝突も少なくないので、ともに乗り越えられるように自分の説得力を高める努力もしていました。5〜6年の時間をかけて周辺農家との信頼関係を築きました。
Q3.売上3億円を突破するために、どんな挑戦をしていますか?
A.販売先のニーズに合わせて「商品」として出荷。
販路を拡大していくために、販売先のニーズに合わせて出荷しています。例えば、これまでは段ボールに詰めて出荷していた長芋を、こちらでカットし、パック詰めした状態で出荷する。そうすることで、販売先はそのまま「商品」として売ることができます。単価やパックのデザインなどは、クロスエイジさんにもご相談しています。
意識しているのは常に需要を探しながら、その需要に即した対応をしていくこと。そのために、日頃から農業だけでなく世間のニュースなど、情報にアンテナを張るようにしています。
Q4.部会長のお父様がいる中で、どのように自分のやりたい農業にシフトされたのでしょうか?
A.徐々に実績を認めてもらうことと、父の考えを否定せず受け入れること。
自分が始めた取り組みで結果を出し、徐々に実績を認めてもらうようにしました。最初の一回で失敗すると話を聞いてくれないと思っていたので、特に慎重に実行しました。
また結果は売上など数字で表せるものだけでなく、周辺農家との関係性も含まれます。地域で認めてもらえると、親としても誇りに感じる部分が少なからずあると思いますし、安心して「任せてみよう」と思ってくれるはずです。
大切にしていたことは、父が大切にしていることを頭ごなしに否定せず、尊重すること。相手の考えを受け入れ、時代の変化に合わせてうまく取り入れるようにしています。
Q5.降雪地域で、周年で仕事を作るために工夫されていることはありますか?
A.貯蔵庫を活用し、周年出荷を実現。設備投資はリスクを考えて最小限に。
12月~翌年の3月初旬までは雪のシーズンのため、畑での作業はできません。そのため、貯蔵庫を活用して、周年で契約出荷ができる仕組みを作りました。
事業計画をしっかりと立てていない状態で、大きな設備投資をするのはリスクが大きいと考えています。そのため、貯蔵庫はもともとあったものと、追加で設置したものの2つで対応しています。さらなる設備投資は、私が経営を継ぎ、栽培面積を増やすタイミングで行う予定です。
Q6.すぐ辞めてしまう…人を雇用する上で、気を付けているポイントはありますか?
A.地元住民を中心に雇用。県外からの雇用は労働環境を整えてから。
求人サイトでキラキラした言葉を並べれば、県外から農業に夢を持った若者が来てくれるでしょう。しかし、地道な農作業や田舎暮らしを前に、理想と現実のギャップに耐えられる人は少ないと思っています。そうなると、せっかく人が集まっても辞めてしまいますよね。
そのため、現在は地元の方や家庭のために働かなければならない人を雇用しています。そして今後、新卒採用など雇用の幅を拡大する段階になったときには、まず働く環境の整備から始めようと思っています。
また、現在働いている従業員に対しては、褒めることも大切にしています。作業効率だけでなく、作物の病気に気づけたことなどをきちんと見てあげる。彼らが賃金以上のやりがいを感じてくれることが理想です。
Q7.従業員の役割分担はどのようにされているのでしょうか?
A.「農家の労働者」ではなく、「農家」の意識を持ってもらえるように作業を任せる。
まずは全従業員に同じように全作業を教え、自分たちの畑に責任感を持たせるために農作業を任せています。台風が来たときに畑の様子が気になってしまうほど、彼らにも「農家の労働者」ではなく、「農家」として当事者意識を持ってもらえたら嬉しいですね。
また、従業員にも地域の集まりに参加してもらい、周辺農家との交流を通じて「地域の農業を担う一員」という感覚を養ってもらうようにしています。
Q8.経営者自身が何でもこなして手一杯になってしまう…一歩先に進むためにやるべきことは?
A.経営者としての仕事を増やし、畑に出ないことへの罪悪感を捨てること。
従業員に任せることを増やしていくことだと思っています。畑に出て作業をしないことに罪悪感を感じてしまうので、私はまだ完全に現場を離れることができていません(笑)。「畑に出ていないと働いていない」という意識が、自分の中に根強く残っているのでしょう。
しかし、この意識を変えないと一歩先には進めないと思っています。そのためには、畑に出る余裕がなくなるほど、経営者としての仕事や時間を増やしていく必要があるのかなと。私自身にとっても、これから向き合わなければならない課題です。
ただ畑や作物をまったく見なくなると、農業経営はうまくいかなくなると思っているので、「どんなものを作っているのか」の意識はいつまでも持っていたいです。
部会長であるお父様、地域の農家さんと時間をかけて良好な関係を築き、今では産地の発展を支える存在となった乙部さん。おとべ農産さまが成長できた背景には、乙部さんの「人との繋がりを大切にする精神」があったのではないかのではないでしょうか。
また、乙部さんは「クロスエイジさんとの出会いも運が良かった」と話していましたが、その運を掴むためには「積極性」も大切だと語られていました。乙部さんのこれまでの道のりを伺い、まさにその通りだと思いました。
乙部さん、貴重なお時間をありがとうございました。
(執筆:橋本恵梨奈/編集:ひのりほ)