株式会社andAgriさま突撃インタビュー
法人化から4期で売上1億円へ急成長!
若年層を巻き込み規模拡大を続けるための秘訣とは?
近年、農業従事者全体の減少傾向とは裏腹に、若年層の就農が増えていることをご存じでしょうか?若年層の就農先としては団体経営体(農業法人)の農家が多く、これからの農業の発展のためには、団体経営体での若い農業従事者の確保・定着・育成がカギとなりそうです。
しかし、経営や人材確保に苦戦している方が多いのも事実。農業法人として利益を出し、有力な人材を育てるにはどうしたら良いのでしょうか?
今回は株式会社andAgriの代表・林原正之さんに「農業における法人経営・組織づくりのポイント」についてお伺いしました。
目次[非表示]
\ 農業法人として規模拡大するポイントをお答えします! /
Q1.法人化したきっかけと売上規模、当時の状況を教えて下さい。
A.ブロッコリー農家の両親に負けず劣らず、地域の産業を守りたい。
大学在学中に、鳥取県大山町のブロッコリー農家である両親から継承する形で就農することを決めました。
両親は農地を借りて栽培していたので、長男である自分が引き継がないと、両親も地権者の方も困りそうだと思ったのが最初の動機です。大学卒業後、まず青果市場に入社して販売や物流を勉強しながら6年間働き、29歳のときに就農しました。
約3年両親のもとで働いた後、完全に継承するタイミングで「どうせやるなら規模を拡大したい」と思い、2019年に法人化しました。負けず嫌いなので、両親に負けたくない気持ちもありましたね。品目としては、両親から受け継いだブロッコリーを生産しています。
鳥取県大山町がブロッコリーの産地なので、地域の産業を守ることにも繋がったらいいなと思います。
Q2.売上が5,000万円を突破してから1億円に到達するまで、どんなことをしましたか?
A.農地拡大と並行し、積極的に人材採用と設備投資を行う。
これまで農業を営んできた世代が離農・規模縮小して農地に空きが出るタイミングだったので、その農地を引き受けて栽培面積を増やしました。
法人化当初には10haだった栽培面積が、2期目で18haにまで拡大。
その広さに対応できる農機具の導入と人材確保に乗り出しました。消費税の免税やコロナ関連の支援を受けてまとまったお金が入ったこともあり、人材採用や設備投資に資金を回すことができました。自己負担額としては3,000万円程度だったと思います。
Q3.若年層を雇用するにあたって気を付けていることはありますか?
A.農業の「当たり前」を押し付けない。働きやすい環境を整える。
農業の現場を知らない人も多いので、一般企業と農業とでは働き方に違いがあることを理解する必要があると思います。朝早くから働いて、丸一日休める日なんてないのが農業では当たり前だと私自身は思っていましたが、従業員にとっては厳しいルールであることは間違いないんですよね。
特に若い人材は、ワークライフバランスを重視する傾向があります。働きやすい環境をなるべく整えたいですし、そういった観点でもクロスエイジの「組織づくりコンサル」を活用させていただきました。
Q4.品質を維持しつつ収量も落とさない、「生産力」を維持・向上するためのポイントは?
A.品目を絞り、同じ作業を何度も繰り返すことで従業員のスキル習得を促す。
ブロッコリーは収穫のサイクルが短く、1年の中で何度も同じ作業を繰り返せるので、早い段階で作業を習得しやすいのが特徴です。
担当を決めて繰り返し手を動かしてもらうことで、従業員の作業スピードや品質が上がり、従業員自身が状況を見て臨機応変に行動できる。
それが結果的に、生産力の維持・向上に繋がる。繰り返して数がこなせるというのは、ブロッコリーに特化した私たちだからこその強みだと思います。
Q5.GAP取得のきっかけや目的は?
A.東京オリンピック選手村への食材提供がきっかけでGAP取得。結果的に販売経路も拡大。
法人化するまでは父が作業小屋の管理をしていたものの、資材や農機具など、何がどこにあるか分かりにくく、今後人材を迎え入れるためにも雑然とした状況を改善したいと思っていました。
そのタイミングで農協から「東京オリンピックの選手村に食材を提供しませんか?」とお声がけいただき、食材提供の要件であるGAPを取得することに。GAPを取得するには肥料や農機具の整理整頓が必要だったので、自社にとっても良い機会だと思い挑戦しました。GAPを取得したことで販売経路も広がったので、挑戦して良かったです。
Q6.営業活動のコツや、意識していることはありますか?
A.自分たちの利益も、消費者や販売者の利益も、同時に追求する。
営業活動は、青果市場に勤めたときに知り合ったバイヤーの方々に声をかけたり、農協に出荷したりすることから始めました。現在は、農協でのシェアが7割程度あり安定的に出荷できていますが、今後は、自社で販売価格を決定できる販売経路をもっと開拓したいと考えています。
さらに、自分たちだけでなく、消費者にも販売者(スーパーマーケット等)にも利益が出る価格を探ることが一番大事なポイントだと思います。長期的に取引するためにも、三方良しはかなり意識して交渉します。ブロッコリーの場合、消費者目線では販売価格を198円以内に抑えたい。その中で販売者と自分たちの利益をどうするかは、お互いに気持ち良く取引できるバランスを考えますね。販売者によっても考え方が違うので。
Q7.成長できた秘訣は何だと思いますか?
A.農地が空いたタイミングを欠かさずキャッチ。覚悟を持って規模拡大に奔走。
タイミングが良かったのだと思います。ちょうど周りに離農・縮小される農家さんが多くなってきたところで、すぐに農地を借りられたのは大きかったです。実際には、自分の名前で農地を借りるのは難しく、実績のある親の名前を伝えてようやく借りられる状況でした。規模拡大に関しては特に、今でも四苦八苦しています。
とはいえ、従業員の待遇を良くしようと思うとやはり規模拡大は必要なので、難しいからといって足踏みする理由にはならないんですよね。空いた農地を私たちが借りなかったら他の農家さんに借りられてしまいますし、負けず嫌いなので、やれることはやるようにしています。
Q8.経営者自身が何でもこなして、手一杯になってしまう…。一歩先へ進むために「まず」すべきことは?
A.従業員を信頼し任せることで、主体的に協力し合える組織を作る。
組織づくりですかね。初期からのメンバーがリーダー的な役割を担ってくれて、いろいろと任せられるようになってきました。僕と従業員との間のクッションとして動いてくれる彼の存在は本当に大きい。僕があれこれ言わなくても従業員同士のコミュニケーションで現場が回る場面も多く、とても助かっています。
現在、私と両親を除いて従業員は11人いますが、初期メンバーの彼以外は勤続1年程度の従業員ばかりです。今後さらに人数を増やすことを考えると、リーダー的ポジションの人材を育成する必要性を感じます。何か問題が起きて手遅れにならないようにチェックはしますが、従業員を信頼して任せる意識は持ち続けたいです。
Q9.今後のビジョンを教えてください。
A.シェアの少ない加工用ブロッコリーの生産を視野に入れ、規模拡大を継続。
売上としては、次は3億円を目指したいですね。ブロッコリーの市場は供給過多になりつつあるのですが、加工用ブロッコリーのシェアはまだ輸入品に頼っている部分もあるので、生鮮だけでなく加工用にも手を広げたいです。
鳥取県大山町のブロッコリー産業を守るという点では、これからも自分たちにできることを一生懸命やろうと思っています。現状、規模を縮小する農家さんが多いので、自分たちの規模を拡大しつつ生産を続けることで産地の維持に貢献したいですね。
法人化して1期目で3,000万円、2期目で5,000万円、4期目で1億円、とスピーディーに売上を伸ばした林原さん。
林原さんの負けず嫌いから生まれる行動力と、関係者に対する温かな思いやりが非常に印象的でした。
ご本人は「タイミングが良かった」と仰っていましたが、そのタイミングを逃さず掴みとる力が一流なのではないかと感じます。そんな林原さんだからこそ人が集まり、andAgriの急成長にも繋がったと思わずにはいられませんでした。
林原さん、今回は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
(執筆:大河内友里/編集:林春花・ひのりほ)