一般財団法人 みらい創造財団 朝日のあたる家さま突撃インタビュー
農業界と福祉業界の架け橋に。
農福連携の雇用創出までに至った取り組みとは?
近年、農福連携が注目されていることをご存知でしょうか。
農福連携とは、障がい者などが農業で活躍することを通じて自信や生きがいを持ってもらい、社会と繋がる機会を促す取り組みです。
この取り組みは人手不足の農業界と働きたいと思っている障がい者双方の問題を解決する手段の一つです。しかし、コミュニケーションの不安や経営の見立てが分からないといった理由から、実際に取り組みに移せない農家が多いのが現状です。
今回は、岩手県で福祉事業を展開している「一般財団法人みらい創造財団 朝日のあたる家」の事務局次長、並びに就労支援や人材育成コーディネーターとしてご活躍される、鈴木拓さんに「農福連携の運用の仕方・障がいのある方への歩み寄り方」についてお伺いしました。
目次[非表示]
- ・Q1.朝日のあたる家を設立したきっかけや背景を教えてください。
- ・Q2.農福連携を始めようとしたきっかけを教えてください。
- ・Q3.障がい者雇用の提案を行うにあたって、農家さんの抵抗感をなくすためにどのような工夫をされていますか?
- ・Q4.業務委託時は利用者さん(障がい者)だけでなく、職員の方も同伴されているとのことですが、詳しく教えてください。
- ・Q5.農家さんによって生産品目や作業内容は異なりますが、その中でどのように利用者さんの仕事を分担していますか?
- ・Q6.利用者さんに仕事をお願いする際のポイントを教えてください!
- ・Q7.利用者さんの作業量や生産性が気になっている農家さんも多いかと思いますが、実際のところいかがでしょうか?
- ・A.利用者さんそれぞれに適した仕事をしてもらっているので満足度が高め。
- ・Q8.農家さんが就労移行支援事業所に依頼するにあたって、まずすべきことは?
- ・Q9.どのような取り組みを行っていれば就労移行支援事業所から声がかかりますか?
- ・Q10. 今後、農家さんが農福連携を上手く推進していくために必要なことはありますか?
- ・Q11.クロスエイジにはどんな印象がありますか?
\ 農福連携の雇用創出についてお答えします! /
Q1.朝日のあたる家を設立したきっかけや背景を教えてください。
A.障がい者が活躍する機会を作りたい。地域との関わりを提供したい思いがきっかけに。
朝日のあたる家にジョインする前は、障がい者雇用の相談員として働いていました。相談を受ける中で、障がい者と地域がもっと密に繋がってほしいと思っていました。
何かできないかと考えている頃に、東日本大震災が発生。コミュニティ拠点になるような建物が少なく、障がい者支援が行き届かなくなりました。そこで、すぐに拠点となるようなログハウスを作り、ボランティアや支援員も集まれるような場所を提供しました。
拠点を作ってから10年の節目を迎え、震災の影響も落ち着いたことを鑑みて、コミュニティ拠点の役割だけでなく、地域に向けて公益性のある事業に取り組むことにしました。もともとは救援募金で運営をしていましたが、転職して本格的にアサインすると同時に、一般財団法人に切り替えました。一般財団法人を設立したことによって、農福連携といった社会貢献に直結するような提案がしやすくなったという利点があります。
Q2.農福連携を始めようとしたきっかけを教えてください。
A.以前から営業していた繋がりから出会いが生まれる。
関わりのあった多くの福祉事業所が雇用先を求めていたこともあり、休眠預金活用事業前から農家さんとの繋がりがありました。
そんなときに休眠預金活用事業の存在を知って。農家さんとの共同で応募可能とのことで、休眠預金活用に興味のある農家さんに説明会を行ったのがはじまりです。
Q3.障がい者雇用の提案を行うにあたって、農家さんの抵抗感をなくすためにどのような工夫をされていますか?
A.農家さんと利用者さん、お互いが納得できるようにサポート。
農家さんとお話するにあたって、最初から障がい者雇用の提案はしないことを心がけています。障がい者雇用前提で提案すると、利用者さんとの関係構築に不安で、農家さんが身構えてしまうからです。
最初のステップとして、職員と利用者さんでチームになって農地でお手伝いができることを伝えます。農家さんも職員がいることで安心してもらえます。
もしこのまま働き続けてほしいと農家さんが感じてくれたら、次の段階として障がい者雇用を勧めています。最大3ヶ月のトライアル雇用を経て、双方が相談して納得したうえで働き続けるか判断してもらいます。この採用システムにより、お手伝いから始めて、トライアル雇用、そして雇用へと移行してくださる例は増えていますね。また、トライアル雇用に対して助成金がついているので、農家さんにとってもメリットが大きく、積極的に取り組んでくれる方が多いです。
Q4.業務委託時は利用者さん(障がい者)だけでなく、職員の方も同伴されているとのことですが、詳しく教えてください。
A.職員が農家さんと利用者さんの架け橋となり、コミュニケーションをスムーズに。
農家さんと利用者さんのコミュニケーションがスムーズにいくよう、職員も同伴しサポートしています。農家さんが直接作業の指示を利用者さんにしてしまうと上手く伝わらないことや、利用者さんによって伝わりやすさが違うので、指示は職員を経由しています。
農家さんにお願いしていることとして、関係構築のために「おはよう」「ありがとう」といった挨拶があります。小さなコミュニケーションを大切にすることで、意思疎通がスムーズになります。
Q5.農家さんによって生産品目や作業内容は異なりますが、その中でどのように利用者さんの仕事を分担していますか?
A.一人ひとりの適性に合った仕事を提案する、利用者さんファーストな姿勢。
業務の工程を一度細かく分解して考えて、利用者さんがどの作業なら取り組みやすいか見極めるようにしています。
例えば、野菜の選別をするときに傷や重量といった様々な基準項目があります。それを1項目に単純化して分担することで、利用者さんが確実に作業ができるようにしました。もし選別で迷うことがあっても、迷ったもの専用のボックスに入れてもらうといった工夫をしています。
Q6.利用者さんに仕事をお願いする際のポイントを教えてください!
A.工程数を少なくして、シンプルで分かりやすい作業になるよう心がける。
実際の業務のポイントを絞って依頼するようにしています。
特に、野菜の収穫は口頭で伝えてもイメージしにくいことがあります。相違があってはいけないので、収穫していい野菜の大きさに段ボールを切って指標を作るなど、目に見える形にしています。このように農家さんと意見をすり合わせながら試行錯誤をしています。
Q7.利用者さんの作業量や生産性が気になっている農家さんも多いかと思いますが、実際のところいかがでしょうか?
A.利用者さんそれぞれに適した仕事をしてもらっているので満足度が高め。
現在13の農家さんと農福連携を進めていますが、利用者さんの適性に合った仕事を与え、それ以上の仕事は任せていないので、農家さんに満足していただけることが多いです。
Q8.農家さんが就労移行支援事業所に依頼するにあたって、まずすべきことは?
A.最初に相談を。単価や業務内容の設定まで農家さんを1からサポート。
一度、見学してみてください。労働時間や単価の設定はその後で大丈夫です。朝日のあたる家では、お試し価格を設定しています。
価格設定を初めからするのは難しいと思います。その点はサポートしていくので安心していただきたいです。
Q9.どのような取り組みを行っていれば就労移行支援事業所から声がかかりますか?
A.まずは発信することから。外部に取り組みをアピールすることで注目を集める。
はじめは発信をすることが大切だと思います。農福連携のコーディネーターは県の社会福祉協議会にしかいないので、ただ待っているだけでは繋がりが生まれません。
例えば、椿茶を生産している農家さんは、仕事を障がい者や高齢者のデイサービスなどに紹介していました。この取り組みが新聞やメディアに掲載されたことで、他の就労移行支援事業所から声がかかったのです。こういった発信を増やすことで、もっと多くの方に知られて注目してもらえると思います。もちろん、就労移行支援事業所に直接相談していただいても大丈夫です。
Q10. 今後、農家さんが農福連携を上手く推進していくために必要なことはありますか?
A.とにかく外に発信を。多くの人たちに取り組みをアピール。
まさに広報です。クローズで農福連携を行うと注目されなくなる恐れがあります。
障がい者雇用の工夫しているところや、働いている感想などを継続的にSNSなどで発信していくことで、地域の方々からの賛同が得やすくなります。農福連携は近年話題に取り上げられる回数が増えていますが、継続してアピールすることが大切です。
また、広報に注力することで、いろんな方々から「見られている」という意識を持ち、責任感や誇りをもって真摯に取り組むことが重要です。
Q11.クロスエイジにはどんな印象がありますか?
A.経営のノウハウを最大限に活かし、農家さんのバックアップができる頼もしい存在。
クロスエイジさんとは休眠預金活用事業でご一緒しました。農家さんの経営を専門的な知識を用いてサポートしていて、農家さんにとっては心強いと思います。
戦略の立て方などクロスエイジさんから学びたいことはたくさんありますね。
長年福祉に携わってきたからこそ社会との繋がりが困難な方たちを救いたいという信念が強い鈴木さん。「もっと福祉の現状を知ってほしい」と鈴木さんは仰っていました。多くの人に福祉の現状を伝えたい思いがあるからこそ、利用者さんの気持ちを1番に考えながら、農家さんも納得のいく提案ができるのだと感じました。
鈴木さん、今回は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
(執筆:吉野朱美 /編集:林春花・ひのりほ)