株式会社 鈴木農園さま突撃インタビュー
【商流を読み解く】売上2.3億円のイチゴ農家が伝える栽培&経営戦術!
いちごの栽培の前倒しや育苗による収益確保など、他の農家が真似しにくい独自の経営をしている鈴木農園さん。戦略を練り続け、あらゆる需要に応えていける強みを生み出してきました。
今回は、静岡県掛川市でいちごの生産をしている鈴木春雅さんに「自分たちの農園の強みを見つける方法」についてお話を伺いました。
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Q1.就農のきっかけを教えてください。
A.周囲の方のサポートに応えたい想いで本格的に農業を開始。
両親はいちご農家を営んでおり、長男として生まれた私はタイミングを図って就農することは決めていました。しばらくはサーフィンをしながら海外~転職、と自由にしていましたが、実家の農園をサポートしてくれる方が徐々に増え、共に過ごすほど、栽培を通じて農業にのめりこんでいきました。結果26歳で就農、当時は2,600万円ほどの売上でした。「農家=貧しい」という印象だったので、このマイナスイメージを払拭し事業規模は1億を目指そうと気合が入りました。
Q2.なぜ法人化に踏み切ったのでしょうか?
A.家業とビジネスをはっきり分けて売上を把握するため。
就農したときから法人化しようと考えていました。
当時売上6,000万円、パートさんが5名ほどだったのですが、
個人事業のころからの課題として、財務のどんぶり勘定具合がひどく税理士さんも頭を抱えるほどでした。
当時知識がない中経営を行っていくにあたり、まずは自社の経営が儲かっているのかどうか、
売上の詳細を把握するためにも、家業との区別をしっかり行い、ビジネスの土俵に立つこと(=法人化)の必要性を感じました。経営については何も知らなかったので、ひたすら勉強しました。
Q3.売上5,000万円を達成したときに工夫したことを教えてください。
A.事業規模の拡大を第一に目指す。思い切った投資が大切。
当時は周りに大規模のいちご農家が少なくて、数千万円の投資も恐ろしく…
売上5,000万円を達成するまでも大変でした。
そんな中、たまたま行った勉強会で同世代のトマト農家の方たちが何億もの設備投資をしていることを知りました。それに影響を受け、私も規模拡大のための投資を勇気をもって行いました。規模を大きくしたことで売上の見当がつき、人件費などを賄えるようになりました。
また、当時はライブドアが世間を賑わせていた時で、ネット販売にも注力してみましたが、自身の販売スタイルに合っていないことを感じ撤退しました。
Q4.売上1億円を達成したときに行っていたことを教えてださい。
A.量を確保するため、栽培技術の習得へ。
この頃から経営のバランスも取れてきて、自社に何が足りないのか、いつの時期に作ればメリットがあるのか、改善行動の方向性が的確に分かってきました。
ベンチマークとしたのはオランダのGrower(グロワー)、日本語でいう「栽培者」のような感じです。単価が安かろうが販路が農協だろうが量が取れれば儲かると感じ、販路はシンプルに、そしてひたすら栽培技術の習得に走りました。
農地の交渉がまとまり次第、ハウスを増設し、社員も雇用、夏の仕事が少ないことを、栽培システムの社内施工で補っていました。
Q5.組織づくりで力を入れていることはありますか?
A.主体性を求めつつ能力を活かす。
社員には常に主体的な改善行動を求めています。時には厳しいことも言いますが、関係性が出来てから伝えることを心掛けていますね。
特定技能実習生やアルバイト等含めると6~7か国の人が勤務する時もあるりますが、根本的な規律のない人は採用しないようにしています。
細かなルールで管理することも大事ですが、それよりは経営陣が多くの利益を生む方法や、節約できる方法を生み出し、儲けでカバーする方がストレスなく、やりがいがあると感じています。今後は人先行で、その人の能力が生きる部門を作っていければと考えています。
Q6.鈴木農園さんの強みは何ですか?
A.供給が少ない時期を狙った作型の構築。
どのような商流があるのか、業界に精通した方に徹底的に聞き、問題点や何を求めているかを出荷時期別に明確にさせ、そこから自分に合った経営スタイルを考えるようになりました。
その結果、栽培技術を生かしたBtoB販売に注力していくということで、業務用イチゴの生産が一番強みになる10月と11月の生産をフルで行えるよう作型を構築しました。作業スピードなど個人差が出たり手作業が多いことも問題となっているので、機械を積極的に導入し作業の平準化にも努めています。
また、夏の収益確保のため、いちご苗の販売事業を開始します。
収穫の延長、育苗の前倒しで大変ですが、他のいちご農家は行っていないからこそ需要が高まるのです。
Q7.代表が何でもこなして手一杯になってしまう…一歩先へ進め為すべきことは?
A.やらないことを決める。
まず、自己分析をしました。自分に合わない経営をするのは大変なので、客観的に知ることが大切です。
その上で「やらないことを決める」ことが大切であると学びました。自分の経営がままならないうちは自分・自社への時間を作ることが最優先と教わったので、社外的集まりや会議への出席など、コントロールできる範囲は徹底的にしました。
また、取引先は選ばせていただくことで、取引の仕組み自体をシンプルかつ自社負担を軽減することへも注力しました。相手(取引先)の弱み、自社の強みを組み合わせることで相手にとって必要とされる、替えのきかない農家になるので、お客さんを選ぶことができる。
そうすると、シンプルに少ない工数でストレスなく仕事ができるようになりました。
Q8.クロスエイジはどんな存在ですか?
A.他産業目線で農家をみて、導いてくれる存在。
鈴木農園にとってクロスエイジは貴重な存在です。クロスエイジのことは代表である藤野社長が執筆した『これからの農業は組織で勝つ』という本を読んで知りました。初めはメイン事業が流通プロデュースだと知らなかったのですが、コンサルティングを通してBtoBに精通していると思いました。
農業界や流通を知ってるので意思疎通が早いです。プロデュースしてもらうばかりではなく、他の農家の事例やいろんなアイデアをもらって付加価値を生み出していきたいですね。
Q9.今後の鈴木農園さんの展望を教えてください。
A.自身や社員、関わる人が人生を振り返って、充実していたと思ってもらえるような事業を。
これからはもっと面白いこと、自分たちの強みを活かして活躍できることに挑戦したいです。
あと、売上にこだわる訳ではないですが農家人生一度くらい、事業で跳ねる経験をしてみたいので(笑)、事業成長には引き続き努めます。
人生後半に差し掛かったので、自身のライフプランと重ねて、他の地域でこれまでのノウハウを活かす活動もできればと思っています。
周りの意見を取り入れながら、独自の戦略で規模を大きくしている鈴木さん。
「最初は経営について全く知らなかった」と仰っていましたが、トライアンドエラーを繰り返し続けたからこそ、自ずと結果に結び付いたのだと思います。
鈴木さん、今回は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
(執筆:吉野朱美/編集:柴萌子・ひのりほ)