【休眠預金】農福連携 ブログ

          

catch-img

株式会社なかせ農園さま中間インタビュー

さつまいも農家の働き手不足を解決。農福連携プロジェクトへ挑む葛藤と覚悟。


株式会社クロスエイジ(以下、クロスエイジ)は、「大規模農業経営の安定した人材確保と経営」「障がい者の農業現場での活躍」ができる地域や社会を目指すべく、休眠預金活用事業における資金分配団体として、農福連携推進のために活動する6実行団体の支援を行っています。

今回は本プロジェクトの実行団体である、熊本県大津町でサツマイモを栽培している株式会社なかせ農園(以下、なかせ農園)の代表・中瀬 靖幸さんに休眠預金活用事業に申請したきっかけや事業発案への想い、クロスエイジとの関係性などをお伺いしました。


なかせ農園さまの今回行う事業について教えてください。

自社で就労継続支援A型事業所を開設し、さつまいもの育成に特化した教育・訓練をうけた利用者を地域のさつまいも農家へ輩出していくことで、地域に還元できる仕組みを作りたいと考えています。

現在、熊本県の大津町には150件のさつまいも農家があります。それぞれ「営農は継続したいけど働き手がいない」という問題を抱えていて、90歳にもなる高齢者が作業をしている状況です。

弊社はすでにさつまいもに特化した生産・販売・出荷を行う母体があります。さつまいもの育成について利用者に深く広く学んでもらい、今後どのさつまいも農家に行っても困らないようにすることで、就労先の教育コストも下げることができます。(例えば、いもの選別方法やどこをカットするかなど)

事前に弊社で学んでいれば、例えば「○○農園さんでもやってください」となっても微妙な違いはあれど、おおよその基礎知識はあるので調整がしやすいんです。初期の前提知識があるのとないのとではその後の熟練度だったり、早いうちから作業をうまく回せるようになるんじゃないかと思っています。さつまいもの育成についての基本的なことを知ってるだけで全然違います。

お互いの相性が良ければ直接雇用いただくこともできるので、次世代の担い手がいないという農家にとってもWin-Winの関係です。大津エリアのさつまいも農業の継承に貢献できると考えています。

休眠預金活用事業に申請したきっかけを教えてください。

実は、この申請に関して葛藤がありました。農業に関しては、経験から事業を継続する方法がだいたいわかりますが、福祉の分野に参画することに関しては不安を感じていました。

福祉分野では、真摯な社会貢献の精神が求められると感じており、自分自身がそのような奉仕の精神を持ち合わせているかどうかについて悩んでいました。

しかし、それでも決意したのは、弊社が以前から行っている農福連携事業を加速させることが、会社としても社会課題の解決に価値があると感じたからです。

熊本地震以降、家族経営から脱却するために、障がいのある方の力を借りてきました。これを加速させたいと考えていましたが、自力で進めることは難しく、また資金的な制約も感じていました。そんな中、クロスエイジさんからこの事業についてタイミングよくお声がけいただきました。

もちろん採択には選考があり、適正な選考のもとで選ばれましたが、以前からクロスエイジさんには「農福連携を全国で拡大させよう」という熱い提案をいただいていたので、やらない理由はないと感じました。

事業発案には、どのような想いがあったのでしょうか?

■家族以外の従業員としての労働力の確保ができてないという状況
地方は農家の高齢化が進んでおり、若手農家へ管理が難しくなった農地が集約している傾向にあります。しかし、面積が増えても、家族以外の第三者雇用ができていないので家族経営で担っている状況です。それだと自分自身もフルコミットして作業しているので家族との時間が確保できないなどの課題がありますが、やり方を覚えれば誰でもできる簡単な作業は沢山あると感じています。

■障がい者の方への思い込みと誤解
弊社も障がい者の方を雇い入れる前は、彼らはできることに制限があると思っていたんです。でも、作業を構造化してマニュアルや作業の切り出しができていれば、健常者以上のパフォーマンスが出せることに気付きました。弊社の南という従業員も障がいを持っていますが、車の免許を取得するなど活躍を見せてくれて。ひとつの成功事例が障がい者の方への固定概念を壊してくれたなと思います。ほかの障がい者の方もすごく生産性が高いので、これは南だけに限ったことじゃないんだなと。

実際、障がい者の方も「自分はできない」と思っていることが多いんです。自己肯定感が低い方が多い傾向にある。だから、教える側・受け入れる側のスタンスややり方次第で彼らが「自分でもこんなことができるんだ」と気づいて仕事をしてくれるようになれば、弊社としてもやってよかったなと思えるんです。

■就労者側のQOLも上がり、両者にとってメリットがある
今やろうとしてることは就労継続支援という、あくまで就労にコミットする事業です。仕事でそれなりの適正対価を得られて、希望する休みがとれ、自分で得た給料から好きなものを買ったり、好きなところに行けたりできると、働く楽しみが得られてQOLが上げられるんじゃないかなと考えています。

現在の休眠預金事業の状況を教えてください。

現在行っていることとしては大きく分けて3つあります。

1.福祉の専門家へのリサーチとヒアリング
実際に福祉事業を経営されている方から福祉事業を遂行する上で大切なことやノウハウを学んだり、福祉に関してのコンサルティングを入れることで福祉を行う上で重要事項などをヒアリングしています。また、あわせて弊社も障がい者の方に任せていきたい仕事などを調査しています。

2.就労継続支援A型事業所を設立するうえでの法的な確認と事務的な要件整理
就労継続支援A型事業所は許認可事業なので、開設するための必要事項を確認しています。開設は令和7年の春を予定しています。

3.全体研修を通した福祉への意識の統一化
従業員が全員参加する全体研修にて、福祉への認識レベルの統一・底上げをはかっています。もともと福祉事業をやりたいと思い始めてから4年間、私は複数の施設に見学に行ったり、福祉事業を経営している方にお話を聞く機会があったのですが、従業員たちはそうではありません。そのため、「福祉とはなにか」を学び、従業員全員が障がい者の方との適切なコミュニケーションが取れるよう先進地研修に行っています。

やはり福祉や障がいに対する考え方が異なるので、やることよりもやらないことを明確化させ、なかせ農園における「農福連携とは」の概念を統一化するイメージです。

今後の休眠預金事業の予定を教えてください。

1.就労継続支援A型事業所の中核として、新しい売上(粗利)を作る
事業の核としての新しい売上を作りたいと考えています。そのために必要なのはさつまいもの選果場の整備です。
現在は10kg段ボールにさつまいもをバラで入れて出荷し、スーパーで袋詰めしてもらっていますが、スーパーの人手不足で現在の出荷形態では今後袋詰め作業が困難になりそうです。そこで、障がい者の方に自社での袋詰め作業をご依頼し出荷可能になれば、単価もあげることができ、結果的に粗利を増やせるのです。

2.就労継続支援A型事業所のサービス管理責任者として福祉の専門家を迎える
就労継続支援A型事業所を立ち上げるにあたって、福祉分野で5年以上の実務経験がある方をサービス管理責任者として迎え入れたいと思っています。

3.農業福祉で働いているイメージを伝え、人材確保を行う
やっていくことを人に伝えていくことは大切ですね。農業福祉で働くイメージを持ってもらうために各メディアやSNSでの広報宣伝活動を積極的に行って、もう少し取り組みをわかりやすく伝えられたらいいなと思っています。

クロスエイジの支援で得られた仲間と覚悟とは?

クロスエイジさんには、休眠預金活用事業を通して6つの実行団体をサポートいただいています。その6つの実行団体のひとつひとつが、しっかりと事業を遂行できるように伴走してくれていて、足りないところや改善して行かなければいけないところをしっかりと伝えてくれています。クロスエイジさんがこの事業にかなりのリソースを費やしていることがわかりますし、この事業に賭けているという気概もあり、他の業者ではここまでできないだろうなと思います。

年に一回の全体研修や進捗報告を行ったり、他の実行団体さんの活動内容も共有してくれてとても助かっています。クロスエイジさんが各実行団体のうまくいっている部分も、うまくいっていない部分もしっかり把握しているということは、コミュニケーションをしっかりととっていて信頼関係があることの表れではないかなと思います。また、代表の藤野社長から厳しい言葉をいただくなど、経営者の先輩としても尊敬している部分が大きいです。藤野社長は決断に迷ったときに頼りたい、私にとって欠かせないメンターです。

採択された6つの実行団体は全員、就労継続支援A型事業所の立ち上げが初めてです。一人であれば怠けることができてしまう事業も、ライバルであり仲間である方々がいるからこそ遠くに行けると思っています。複数の実行団体で走っている他の戦友たちの進捗状況をSNSなどでみると、もうダメなんじゃないかと諦めたい時にもう一度机に向かおう、行動しようと頑張れるんです。

さいごに

色々と言いましたが、最後は「覚悟」なんじゃないかなと思っています。6実行団体の仲間がいることで背中を押してもらえているんだと思っています。この事業は絶対に人と関わるので、「ダメだったらやっぱりやめよう」は簡単にできないなと思います。

だからこそ、理念と事業の継続性のどちらも明確にしながらスタートを切りたいです。不明確なことが多い世の中で、どう実現していくか?私たちの挑戦はまだ始まったばかりです。


(執筆:ひのりほ/編集:柴萌子)



スター農家クラウド編集部
スター農家クラウド編集部
スター農家クラウド/Web編集メンバー