株式会社松原ファームさま突撃インタビュー
客観的分析力で着実に売上増加。
就農から事業継承、法人化に至るまでに工夫したこととは?
株式会社松原ファームの代表を務める松原雅之さんはお父様から事業を承継し、農地の拡大や加工品販売への挑戦を通じて、事業を着実に発展させてこられました。
今回は、松原さんが就農してから取り組んできた工夫やチャレンジについてお話を伺い、農業法人の運営に役立つヒントをたくさん教えていただきました。
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Q1.就農のきっかけを教えてください。
A.『自分の価値を最大化させる』ことを目標に、挑戦を決めた。
元々は農業を継ぐつもりは全くありませんでした。都会で飲食業や営業職を経験し、お客様と直接関わる仕事のやりがいに魅力を感じていました。農業はキツく、儲からないイメージがあり…というか実際儲かっていませんでした(笑)
当時、父の考え方にも反発し、実家に戻る選択肢は考えられませんでした。
しかし、25歳になり会社員として自分の未熟さに限界を感じ始めました。自分のことばかりで、悶々とした日々を送る中で、父から「帰ってきて農業をしないか」と提案されたのです。
親孝行も兼ねて、帰郷を決意しました。都会ではありふれた若者でも、地方では大きな強みになります。農業人口の減少が進む中で、当時、国も若者の新規就農を推進し始めていた時期です。実家の経営・ノウハウを引き継ぐことは、自分の年齢や状況を考えると最適な選択だと感じました。
27歳の時、父の願いで県の農業大学校に入学し、水稲栽培を学びました。実家に戻ることに迷いはありましたが、「自分の価値を最大化する」という目標を胸に、帰郷を決意しました。
29歳からは、大学進学の交換条件として、父と約束していた海外農業研修に参加。アメリカの農場で大規模経営のノウハウを学びました。アメリカ、カナダの日本食マーケット向けに、主に大葉や大根栽培に携わり、メキシコ人と一緒に働く貴重な経験を積むことができました。そして33歳で帰国し、本格的に家業を継承しました。
Q2.松原さんの就農後、現在までどのくらい売上は伸びてきたのでしょうか?
A. 就農当初は1,700万円でしたが、現在は約9,000万円まで成長しました。
私が戻った当初、実家は15haの農地で売上1,700万円の家族経営でした。改善の余地は大いに感じました。まず、雇用を生み出し、雇用を維持するために法人化を目指し事業を拡大しました。5~6年で売上6,000万円、農地は35〜40ha、従業員も3名に増やすことができました。そして現在、売上9,000万円、農地50ha、ハウス4棟、従業員5名という規模まで成長しています。
就農当初から父と経営について頻繁に議論しました。最初は父のやり方を理解するので精一杯でしたが、外部の情報に触れるうちに、どんぶり勘定の経営や非効率な部分に気づき、改善を提案するようになりました。もちろん衝突も多かったですが…。
私はまず国の制度を学び、数字やデータに基づいて意見を主張するようにしました。それでも意見が平行線の場合は、農繁期であっても作業をストライキし、外部研修に参加するなどして、自分の考えを貫きました(笑)
すぐに改善されたわけではありませんでしたが、経営のルールや制度を学び、現状の課題を父に粘り強く伝え続けました。私の行動が数字となって表れ始めると、徐々に父も考えを改めてくれるようになりました。
父との議論や改善活動を通して、経営基盤を強化できたことが、現在の成長に繋がっています。家族経営だからこそ生まれたぶつかり合いと、私自身の行動力が、新たな視点や改革を生み出す原動力になったのだと思います。
Q3.50haといった広域な農地をまとめる上で気をつけていることを教えてください。
A. 地域との良好な関係構築を何よりも大切にしています。
私たちは大分県国東市の中山間部で農業を営んでいます。平地が少なく、平均11aの田んぼを400枚ほど管理しています。帰郷後から近隣の農家さんと地道に交渉し、管理を任せていただけるようになりました。
農地を集約する際は、移動コストを抑えるため、3つの谷に囲まれたエリア内を基本としています。ライスセンター、ガソリンスタンド、農機センターといったインフラへのアクセスも考慮し、クボタの圃場管理システムも導入しました。
50haもの農地を管理する上で最も重要なのは「地域との良好な関係」です。「あの会社は良くない」という評判が広まれば、信頼を失い、土地の賃借が難しくなり事業継続は困難になります。近隣住民は、将来のお客様になる可能性も秘めていることを従業員に周知し、何かトラブルがあればすぐに報告するよう徹底しています。
クレームや問題発生時には、飲食業で培った経験から、迅速な対応を心がけています。お客様や近隣の声に迅速に対応することで、信頼を維持し、地域に受け入れられる農業経営に繋がると考えています。
例えば、農作業の時間帯や機械の音、農薬の使用時期など、周囲への影響を最小限に抑えるようにしています。地域の方々と定期的にコミュニケーションをとり、意見交換することも欠かさず行っています。
Q4.販路拡大のために取り組んでいることを教えてください。
A.加工品やオンラインを活用し、新たな顧客層へのアプローチを進めている。
これまでは、食用米の単価が低いため、鳥や牛の飼料用米として販売していました。販路が決まっているため、事業運営の負担が少なく、効率的だったからです。
しかし、現在は事業拡大のため、加工品販売にも力を入れるようになりました。無洗米のビニール包装、パックライスのOEM生産などを行い、自社ブランド「松原ファーム」の認知度向上を目指しています。
特に今はギフト市場への参入に注力しており、挨拶や営業ツールとして活用することで、新たな顧客との接点を生み出しています。今後はさつまいもを主軸とした加工場を整備し、新商品開発を行い、干し芋、芋ペースト、芋アイスにも取り組む予定です。
さらに、国東市の通販サイトやふるさと納税プラットフォームを活用し、新たな顧客層にリーチする取り組みも進めています。こうした加工品販売とデジタル販路の活用によって、事業の可能性を広げています。
Q5.採用・人材活用において留意していることはありますか?
A.発信は欠かさず。徐々に責任を渡す行動も。
年間の応募数は10件ほどと少ない状況ですが、社会人としての基本的なマナーや運転スキルなど、最低限の基準を設けています。
また、インスタグラムやホームページを充実させ、スタッフの顔や作業風景、日々の業務内容を発信することで、松原ファームの魅力を伝えています。特に、SNSやホームページをきちんと見ているかどうかも、採用時の重要な判断材料にしています。
採用後は、最初の半日で全体の業務内容を説明し、マンツーマンのOJT(現場研修)を開始します。新入社員を一人にせず、丁寧にサポートすることを心がけています。
ただし、最近の課題として「責任ある仕事を任せられたくない」という傾向が見られます。そこで、私が最低限のマネジメントを行いながら、現場の監督や仕事の管理を徐々に任せられるよう調整しています。
Q6.クロスエイジはどんな存在ですか?
A.組織化やマネジメントの指針を示してくれる存在。
法人化にあたり、組織化やマネジメントのフォーマット作成をクロスエイジさんに依頼しました。藤野さんは相談しやすく、識学に基づいた的確なアドバイスやノウハウを提供してくださり、大変助かっています。
Q7.今後のビジョンを教えてください。
A. スケールに強いマネジメントシステム、ブランド力を活かせる販売戦略の構築も。
組織化を進め、将来的には私がいなくても生産現場が回る体制を構築したいと考えています。現在は、補助金事業の支給額に上限があるため、売上拡大には面積拡大が必要ですが、設備投資や人件費の増加が課題となっています。
今後は、IT・テクノロジーや新技術を導入し、収益性、再現性の高い米生産を実現したいと考えています。中山間地域でも少人数で大規模生産できる作業体系の確立、組織化を、まずは生産面で実現することが目標です。
収益性を高めるため、加工品事業を開始しました。新規事業を通して、会社と地域が共に成長できる機会を創出していきたいと思っています。将来的には、会社の価値を高め、「松原ファーム」のブランド力だけで販売できる状態を目指しています。
Q8.松原さんご自身はどのような姿を目指していますか?
A.ライスワークとして取り組んでいた農業をライフワークにしたい。
これまでは農業を生業としてきましたが、今後はマーケティングを踏まえニーズがある中で「やりたいことを実現する」段階だと考えています。農業生産を基盤に、加工品の展開・海外輸出、さらには飲食業界への進出など、新たな挑戦をしていきたいと思っています。
松原さんは、ご自身の強みを的確に理解し、戦略的にポジショニングすることで、農家としての売上を着実に伸ばしている、クレバーな姿勢が印象的でした。
元々は実家の農業を継ぐつもりはなかったからこそ、客観的な視点で農業をとらえ、冷静に改善点や可能性を見出すことができたことが、業績拡大の大きな要因の一つだと感じます。
松原さん、今回は貴重なお話をありがとうございました。
(執筆:柴萌子/編集:ひのりほ)