
アララガマ農園さま突撃インタビュー
西表島から挑む「不屈」のパイナップル経営!
ストーリーが育む組織成長術!
1980年代から三世代にわたり、沖縄県の西表島でパイナップル栽培に取り組み、とくに香りと甘みのバランスに優れた「ピーチパイン」を中心に、土づくりから収穫・加工まで一貫して手がける、農業生産法人アララガマ農園合同会社さま。
代表の池村 海仁さんは「fruits full island life」をコンセプトに、”完熟”にとことんこだわった、背景やこだわりを言葉にして届ける「発信の設計」にも力を注がれています。
今回はそんな池村さんに、西表島ならではの経営と組織づくりの工夫を伺いました。
※「アララガマ」とは、沖縄県の宮古島の方言で「不屈の精神」や「逆境からの挑戦」を意味する言葉です。
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Q1.就農までの背景は?
A.作る家に育ち、伝える役を選ぶ。美味しさを言葉で届ける!
私は沖縄本島から南西に400キロほど、「西表島」のパイナップル農家の息子として生まれ、 幼い頃から島外・海外の方が住み込みのアルバイトとして生活を共にする環境で育ちました。
皆さんの「ここのパイナップル美味しいな!凄いな!」という言葉は嬉しかったのですが、この環境と味が当たり前の中で育ってきたので、半信半疑で受け止めていた時も。美味しさを自分の目と耳と舌で確かめたいと思い、海外のパイナップル産地を訪問したりと、実体験を積み重ねることを10~20代は意識して行動してきました。
その後は東京の農業大学にも進学しましたが、様々な職種や生き方を見る中で、農家を目指してずっと生きてきたわけではありませんでした。
父は生粋の「うちなんちゅ(=沖縄生まれの人)」。毎日大自然の中で働いていたので、かなり職人気質・感覚派の人間でした。だからこそ物事を言語化したり、組み立て伝える・発信することへの苦手意識も。一方で母は東京生まれの教師という、対照的な両親の元で育ち、私自身「作る力」と「伝える力」のバランスを身につけられたのかもしれません。都会での経験を経て、改めて実家のパイナップルの魅力やこだわりをお客さまに分かりやすく届ける「伝える役」が必要で、自分はそこを担えると感じるようになりました。

自社商品の良さに対して、代えがたい確信を持つことができるかどうかは、農業経営において非常に重要であると思います。実家の商品は「技術 × 環境 = 商品」という要素が揃い突出していることを経験を通じて知っていたからこそ、就農を決断しました。
Q2.就農からの転機となったタイミングは?
A.「自己評価」から「第三者評価」へ変化。
実家に戻ってから当初は営業を担当していました。とにかく「うちのパイナップルは美味しい」という信念で時間もお金もかけて走り回っていましたが、奇抜さを優先する場面も多く、成果は伸び悩みました。熱意をもって伝えても、相手の反応はいまひとつで、「これは自己満足に過ぎないのではないか」と思うようになりました。
3年目の頃その限界を痛感し、「言葉ではなく結果で示すべきだ」と考え、食のプロが試食審査するコンクールにエントリーしました。自分の言葉ではなく、第三者に評価してもらう必要があると思ったのです。そこで大賞を獲得し、「世界一美味しい」と評価いただいたことが大きな転機となりました。自身の発信力はもちろんですが、他者からの評価が加わった瞬間に商品の価値は一気に広がることを強く実感しました。
それまでは一社の仲卸さんとのみお付き合いしていましたが、可視化された評価を以って直接販路を広げることができ、売上の増加にも繋がりました。
Q3.ミスマッチを減らす人材確保上の工夫を教えてください。
A.島の文化や環境をリスペクトがあるかどうか。
西表島という土地柄、人材確保には大きなハードルがあります。
どうしてもイメージ上、「南の島でのんびり農業したい」という期待を持ってリゾートバイト経由の応募は多いのですが、実際は体力的にも精神的にも厳しい仕事。ギャップに耐えられず、トラブルになることも多くありました。
そんな中で出会ったのが、石垣島の刺身屋で働いていた好青年です。初めて会ったとき、その人柄や立ち居振る舞いから、(西表島が位置する)八重山出身の人だと思ったほどで、実際にはインドネシア出身だと聞いて驚かされました。勤勉で誠実な姿勢に強く感銘を受けたことがきっかけとなり、彼きっかけで技能実習生の採用に踏み切りました。
現在は インドネシア人スタッフ6名、日本人スタッフ4名の体制で農園を運営しています。彼らとは日々協力し合い、定期的に「ぶがりなおし(打ち上げや交流会)」といったイベントも行いながら、文化の壁を越えてチームとしての結束を深めています。。マネジメントの軸は「信頼して任せる」。基礎は1から10まで繰り返し教えますが、その先は自分で考えて動く余地を渡し、失敗も学びに変えられる環境を整えています。

採用基準は「人としての姿勢」です。前職や環境への不満を原因とする応募はお断りしています。何か想定外の事態に陥ったとき、環境や人のせいにしてしまい、結局は他責思考を繰り返しやすいからです。求めているのは、「自分を成長させたい」「新しいことに挑戦したい」と前向きな思いを持つ人。優秀さよりも、「この人を育てたいと思えるか」「一緒に成長していけるか」を基準にしています。
あと最も大事なのが、島の文化や環境へのリスペクト。西表島の文化は、先祖代々の経験と知恵、独特な固有文化の積み重ねで形作られています。それを軽んじて、目先の利益・やりたいことだけを優先するような人は、どうしても島に馴染めず、長くは続きません。逆に、文化を知ろうとする、ここでの生き方に溶け込む思いを持ってくれる方は長く活躍し、実際に今農園を支えてくれています。私が目指すのは、単に働き手を集めることではなく「島を大事する仲間づくり」。それこそが、ミスマッチを減らす一番の最善策だと考えています。
Q4.販売において意識していることを教えてください。
A.自社の物語を楽しんでくれる人と!
弊社のパイナップルは、糖度や香りなど他にない差別化が効いている商品です。だからこそ、ただ値段やサイズといった条件だけでの判断ではなく、背景や物語に共感してくださる方とお取引を続けたいと思っています。 アララガマ農園でしか出せない「音色」を感じ、「一緒にどういった音楽を奏でるか」を対話しながら作っていく感覚に近いものです。

自社背景や想いを伝えるために、「アララガマ農園が選ばれる5つの理由」という1枚の資料を作成しています。私たちが何を大切にし、なぜこの味に辿り着くのかを可視化することで、理解と共感の深さを揃えてから進むためです。結果として、販路はスーパー、宅配、自社通販へと、物語を一緒に発信してくれる方々がお取り組み先として広がりました。単なる取引先ではなく、価値をともに発信するパートナーです。
Q5.経営者として意識しているマインドについて教えてください。
A.最終的な正解は自分に問い続けるしかない。
ここ数年で特に大切するようになったのは、外部からの情報収集よりも「自分との対話」をです。かつては成功している経営者の事例や他業界の知見も積極的に取り入れていましたが、それを踏まえてどうアウトプットしたいのか…「答えは自分の中にしかない」という言葉に出会ってから、深く共感しました。そこからは、外に答えを探すのではなく、「自分はどうありたいのか」に対して向き合う時間を意図的に確保するようになりました。
20代は、とにかく多くの人に会い、いろんな経験を重ね、幅広い情報を得ることに注力しました。それは間違いなく自分にとって有意義な体験でした。しかし30代に入った今は、その積み重ねを「どう選び取り、どう形にしていくか」を決めるフェーズに来ていると感じています。
経営に限らず、日々の判断や行動をするときの基準はシンプルです。
①自分が自分のことをかっこいいと思えるか
②相手が喜んでくれているか
この2つを意識することで、自分自身の軸がぶれず、また周囲の人との関係も前向きなものになると実感しています。最終的に、自分が信じるかっこよさを追求しながら、目の前の方に喜んでもらえる仕事を積み重ねることが、経営者としての一番の責任であり、喜びでもあるのだと思います。
Q6.今後のビジョンを教えてください。
A.選択肢を広げたい!国をまたいで描ける未来を。
インドネシア人のスタッフに対しては、将来の選択肢を広げてあげればと思っています。採用当初は帰国後に役立つ技術を身につけてほしいと考えていましたが、社会情勢的にもいつ何がどうなるか分からないなって…なので特定技能2号の取得を通じて、日本とインドネシアを行き来できるようになって欲しいと思ってます。どちらにも生活基盤があって、自分のライフスタイルや状況に応じて、いろんな選択肢がある環境を整えたいですね。
あとは、働きやすさの実現です。私の考える「働きやすさ」の基準の1つが、「月収30万円・年間休日110日」。 これは通過点ですが、具体的な目安として定め、採用・評価・シフト設計を建設的な対話に乗せられます。
そして、進む指針は外ではなく内側に置く。ベンチマークに寄りかかるのではなく、自分が学びたいことを徹底的に学ぶ。その姿勢が現場の工夫を生み、結果として共感する仲間を引き寄せます。 自分の人生が豊かになるような行動と自分の道をしっかり磨き続けると、周りにもそういう人が集まって残っていくので、そういう人たちと成長し続けたいですね。
池村さん、貴重なお話をありがとうございました。







