株式会社常笑ファームさま中間インタビュー
夢を現実に。過疎化の町を救う本当の農福連携とは。
株式会社クロスエイジ(以下、クロスエイジ)は、「大規模農業経営の安定した人材確保と経営」「障がい者の農業現場での活躍」ができる地域や社会を目指すべく、休眠預金活用事業における資金分配団体として、農福連携推進のために活動する6実行団体の支援を行っています。
今回は本プロジェクトの実行団体である、熊本県湯前町で小松菜などの多品目を栽培する株式会社常笑ファーム(以下、常笑ファーム)の代表取締役・藤岡 洋史さまに休眠活用事業に申請したきっかけや事業発案への想い、今後の展望についてお伺いしました。
休眠預金活用事業に申請したきっかけを教えてください。
常笑ファームの関連法人である株式会社常笑では、10年近く放課後デイサービス・保育所等の訪問支援などをしていましたが、彼らが高校生になってから卒業後の就職が難しい状況に置かれていました。一般就職できずに福祉サービスの中で生活を続けていく子供たちが多かったため、この課題の解決について常日頃考えていました。
農業生産を行う常笑ファームでも彼らの一部を受け入れていましたが、熊本県という土地柄、受け入れ態勢が整っている農家はまだ少なく……。そのこともあり、地域の産業である農業で農福連携ができれば理想的だと考えていました。そんな中、クロスエイジさんからこの事業についてタイミングよくお声がけいただき「幼児から大人までの継続的支援」枠組構築の為のA型事業所設立事業を目指して今回申請させていただきました。
子供からすれば幼い頃から関わっていた職員が近くにいるため、安心感があり、それが理想のあり方だと思います。また、当社では元々デイサービスの一環として学童保育を展開していましたが、その中に発達障害の子供がいたことをきっかけに保育園も開始しました。障害特性を理解できている点が常笑グループの強みだと思います。
常笑ファームさまの休眠預金活用事業の事業内容ついて教えてください。
常笑ファームでは、キクラゲで農福連携を試験的に導入しており、農業法人の中で障がい者雇用の枠で何人か働いていました。障がい者雇用では、運転ができたり軽度な障がいを持った方に限られていましたが、今回の申請によりA型・B型の方々の雇用も受け入れることができるようになり、重い障がいを持った方々も働くことが可能に。常笑ファームとして支援できる方々の層が増えました。
現在は小松菜の収穫を担当していただいています。初めのうちは利用者や従業員も戸惑っていましたが、専門家の介入があり順調に進んでいます。何よりも毎日仕事があることは利用者の方々にとってメリットが大きいと思います。というのも、農業は季節ものの作物が多いため、仕事が用意できない時期があることもありますが、小松菜は葉物ですので毎日仕事が発生します。利用者からすると生活のリズムができ、安定して働き続けられます。
都度話し合いをして配慮しないといけませんが、私たちは利用者のウィークポイントがわかっているため、彼らも続けやすいのだと思います。また、収穫作業は黙々とできる作業というのも大きいでしょう。農業と相性が良いのかもしれません。農業をしたいという利用者もいます。B型の方は段ボールのシール貼りなど、作業の細分化をしながらそれぞれに合った仕事を用意しています。
事業発案には、どのような想いがあったのでしょうか?
農業事業も展開する就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所、就労移行支援事業所「絆」の経営者が農業に集中したいとのことで、事業所ごと引き受けて欲しいという話があり、今回、常笑ファームとして新規に事業所を開設するとは別に事業を引き受けることになりました。
常笑ファームとしても湯前町に福祉事業所開設としてお願いをしていました。しかし、A型事業所の総量規制があり、なかなか枠に空きが出ず苦戦していました。そのような時に絆さんから話があり、スムーズに話が進みました。役員の方々には引き続き会社に残ってもらい、一緒に事業に取り組んでいます。常笑ファームも就業規則や工賃の制度への理解があるため、結果を出せると考えました。
また、農福連携の導入はまだ少ないため、そこに切り込んでいけるかなと考えました。A型では最低賃金を支払わなければならないため、利用者に用意する仕事がないことが課題に挙げられます。そのため、施設外就労で仕事を集めないといけません。しかし、常笑ファームでは自社農園があるため、利用者としても仕事があることで喜ばれました。3月に絆さんを引き受けたときはA型の定員数が埋まっていませんでしたが、2024年7月現在は利用者が埋まっている。B型も順調に埋まってきています。地域産業の良いモデルができたと思います。
また、子供たちが就職するための支援プログラムも実施しています。子供の食育としても、放課後に中高生がファームに来て作業体験ができるようにしました。子供たちに農業に興味を持ってもらえるような取り組みもしています。
常笑ファームは地域的に人が足りていないため、大規模に拡大できませんが、利用者によって人手が確保できるため農家としても助かりますし、福祉としても働き場が見つかるためメリットがあります。まさに三方よしの事業ができていると言えるでしょう。
現在の休眠預金事業の状況を教えてください。
悪くない状況です。農家事業の部分は拡張を続けてきました。良い意味でグループ間で人やお金を回せていける状態です。利用者の中で農業をしたい人が農福連携として農業に携われるといった良いサイクルができるのかと思います。
現在常笑ファームに来る小学生たちが、農家の現状を見ることによって、大人になった時の姿をしっかりとイメージできるのではないでしょうか。障がいを持った子供を持つ親御さんたちは、親がいなくなった後の子供たちが心配だと思います。常笑ファームで幼児から大人までの継続的支援をワンストップで提供することで、彼らの不安を払拭できると考えています。そのシステムを構築するためのお金や労力は非常にかかってしまいますが……。ただ、時間や資金があればできると分かっていたため、事業への申請に対する不安や躊躇はありませんでした。
休眠預金事業に申請したのは1年半前で、現在2年目となります。1年目には、就労のA型・B型の計画を作り、各市町村や各事業所を回り、自分たちがやりたいことを話して回りました。各市町村では確約できないと言われたこともあり、行き先は不安でした。
2年目には、湯前町での開所は難しそうだと判断し、絆を引き継ぐ方向で動きました。常笑ファームに足りないものを探りながら、機械を導入するなど、利用者が戸惑いなく使用できるかどうか試していました。今後は実際に働ける方や、働くのが難しい方の見極めをやっていこうと考えています。雇用を作ることも大切ですが、収益を上げることも大切です。3年目にあたる来年は、イチジクや芋などをテスト栽培をして利用者の仕事の幅を広げていく予定です。
今後の休眠預金事業の予定を教えてください。
正直言って、農福連携を固めていかないと地域の農業も衰退すると考えています。他の事業所にも声をかけて一緒に取り組むことができれば、自社も地域の農家も拡大でき潤うと思いますし、利用者にも就労先の品目選びにおける選択肢ができるでしょう。湯前町は熊本県の中でも遠い地域ですが、農福連携を行う事業所が増えれば、地域の幅も広がり「○○の畑ならこれる!」という思いを利用者の方々に持ってもらえたら嬉しいです。そのことを通して地域活性化ができたらなと思います。障がいを持っている方は地域に残る傾向にあるため、働く場所やお金が稼げる環境を準備することが重要だと考えています。そのためにも、農福連携をワンストップでサポートすることで、地域に残って暮らしていきたいという障がい者の方々の居場所を作りたいですね。
ただ、湯前町は地域的には熊本の一番奥地にあるため、今後さらに農地は空いてくるでしょう。輸送や雇用について今後取り組むべき課題で、いかに人を呼んで湯前町で暮らしてもらうか、ですかね。実際に、放課後等デイサービスでの取り組みとしては、様々な場所から職員を集めています。パート従業員の中では田舎で働きたい人からの応募もあります。
常笑グループは、東京や福岡で放課後等デイサービスのグループ法人も展開していて、田舎と都会の良さは分かっています。将来的には双方を行ったり来たりできる環境ができたら面白いのではないかと思います。就労者の幅も広がると思いますし、コミュニケーションが苦手な障がい者の方々の生きやすさにも繋がるのではないかと考えています。現在すでに拠点はあるため、4~5年内に形にしていきたいですね。
さいごに
過疎化が進んでいる湯前町では、早急に農福連携を通して地域活性化を実現しなくてはならないと考えています。着々と足元のやることをこなしていき、4~5年には理想の農福連携の姿を実現させたいです。私たちが大切にしている「夢現」の精神。夢を現実に変えていく覚悟で、今後も引き続き休眠預金活用事業に取り組んでまいります。
(執筆:柴萌子/編集:ひのりほ)